静かなる内戦31~隙
カマラ達一行は、カザマンス川から一旦逸れ休息をとるために、ニジェのいう湧き水の沼へと向かった。
背を覆わんばかりの深いシダ、小さな島のような中洲だが、諸々の木や草が生い茂り、この先に本当に沼があるのかと思わんばかりの密林だ。
【たった四日前に来たばかりなのに、あの時踏みつぶした草の跡さえないや。】
ニジェはそう思いながら草を掻き分けた。
『おい!ファル!』
カマラが後方にいたファルに叫んだ。
『年寄りは連れてこんでいい!』
『えっ?』
『そのまま川べりで待たせておけ! 面倒だ! 川の水でも飲ませておけ!』
『では、わたしは見張りを?』
『お前は戦力じゃ。来い!』
『はっ!』
『よいわ、お前はゆけ。カマラのやりそうなことじゃ。』
一人の爺がそう言った。
『そうじゃ、わしらはここで上を向いて雨水でも飲んどるわい!』
もう一人の爺がひねくれてそう言ったが、ニコと笑い直して心配するなと言わんばかりにファルの尻を叩いた。
『すぐ戻る。』
ファルは爺達のことが気がかりではあったが、
内心【しめた!】
と思った。
まさか、この行軍に年寄りまで連れて来るとは思っていなかったからだ。
爺達には何も伝えていないのだ。
『しかし、深いな。足が傷だらけじゃ。』
『もうしばらく。』
ニジェはカマラに言った。
と、その時、前がひらけた!
『沼だ!』
『お~う!ここか!』
カマラは沼をグルリと見渡した。
『ここからでも透き通っているのがわかる。』
『見事な沼でございましょう!』
『よし!皆!飲め!戦う力を蓄えよ!』
雨と湿地を、歩き続けた身。
若衆たちは10の子供らさえ振り切って我先にと水辺へと走った。
若衆たちは水辺まで来ると両手で掬うものあり、水面に顔ごと突っ込むものあり、はしゃぎながらゴクゴクとその水を飲んだ。
しかしカマラだけは疲れを微塵にも出さず、水辺へとゆっくり向かった。
愚かな民とは違うと言わんばかりに。
『うううぅ~!』
一人の若衆が呻き声をあげた。
そして口から水を噴水のように吐き出した。
そしてまた一人。
『おぅえ!』『うわあ!』
更にまた一人と、
悲鳴を上げながら、次から次へとバタバタと倒れ出した。
『おい!どうしたというのじゃ!おい!
なんだ!毒水か!ニジェ!なんだこれは!』
しかしそのニジェすら、バタとうつ伏せに倒れていた。
【これでは戦えんではないか!】
カマラの顔は蒼白になった。
後ろにも眼があるというあの隙のないカマラは棒立ちになった。
その時だった。
カマラの後方でファルが弓を引いた。




