殺戮と滅亡 74~洞窟に吸い込まれた蒸気ボート
翌日の昼前。
蒸気のタグ。タービンエンジンの木船に石炭が押し込まれた。
その赤く溶岩の様に照り出した燃料は、人の背丈の煙突から真っ黒な煙を排き出した。
燃える石の動力は、取り付けたスクリューをゆっくりと回し始めた。
ブシュブシュ ボッボッ
瓦礫の山から拾い出した舵輪。つまり船のハンドルだ。
機関からシャフトで繋げた、簡易な蒸気のモーターボート。
「止めろ!止めろ!動き出しちまう!」
シュシュ シュッ~ぅ
「さすが我が軍の整備兵。一日もかからぬとは。」
「ハーン。あとは、火薬で洞窟の前を。」
珪藻土にグリセリンを滲み込ませた爆薬。
ダイナマイトと呼ばれる最新兵器。
フランス軍大佐レノーがニジェ達に差し出したのもこれと同じ物だった。
「しかし、洞窟の前から川までを爆破してもうまく水がそこに流れ込むだろうか?」
「崩したって、穴のような道が出来ない事には、、高低差がなければ、、」
ハーンは考えた。
「なあ、機帆船。3艘とも舳先を洞窟に向けて並べてくれないか。」
「並べるって、、」
「縦に列を作るんだ。川の流れは3艘の船に遮断され流れは洞窟に向く。そこで岸辺を爆破すれば、」
「流れのついた川の水は洞窟に向かうという事か?」
ーーーーーー
岸辺から洞窟入り口までの間。至る所に埋め込まれたダイナマイト。
筒状の爆薬。その導火線に火が点いた。
ボートにいた10の兵は、ボイラーに石炭を押し込んだ。
洞窟からの導線に火を点けた10の兵は、両の人差し指を耳に突っ込み、川辺をバシャバシャと蒸気ボートに向かった。
その兵達がボートに乗り込んだ瞬間であった。
ボ~ンッ!!
ドっカーン!!
バラバラバラ~ッ!!
ド~ン!ドーン!ボーンッ!
洞窟入り口から岸辺の間の河原が爆破され、高さのあった洞窟の入り口の岩窟は物の見事に崩れ落ちた。
そこに、木帆船で遮断した満々たるカンビヤの流れが、怒涛一気に吸い込まれた。
前屈みになったブラルとバズ、それにオランダ20の整備兵を乗せた蒸気のボートは、吸い込まれるように風を切った。
「入るぞ~!頭を下げろ~!」
その風と水の流れに乗った彼らは、瞬く間に洞窟に飲み込まれていった。
ザッブーン!!
ジャバジャバジャバ~!!
洞窟内との高低差は緩んだものの、それでもボートは入り口付近でポンッとジャンプすると、その先の暗闇に着水した。
ザザ~、ザッっブ~ン!
「ふ~!無事乗ったぁ~!」
「しばらく石炭はいらんぞ~! 流れにまかせ~!」
「グイグイ進むぞ~!」
操縦兵だけが両肩を上げ、舵輪をシカと握り締めた。
ブラルとバズが屈めていた背中を起こすと目の前には初めての洞窟。
その先には彼らがハラやガーラを覗き込んだ井戸からの光が、日の柱となって聳え立っていた。
「1,2,3,4,5~!」
「35が宮殿の下ぁ~!」
「6,7,8,9、10~!」
「早や~!」
「ゆけ~!カザマンス川までぇ~!」
※ダイナマイト
ノーベルによって発明された火薬保持の為の爆薬であったが(火薬はそれ以前の昔からありましたが)、目的は土地開発や開拓や工事。しかし、それは世界中の軍隊により戦争の武器として扱われた。
日本で初めて使用されたのは明治時代の琵琶湖疎水の工事。
ダイナマイトとは「力」を意味するギリシャ語。