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殺戮と滅亡 71~怯えとイビキ

「ヴィンセント殿!ヴィンセント殿!!」

 『なんだ。どうした?騒々しい。』


「はい、ここから東の先、ひらけた場所がございまして、、」

 『ほう、良かったじゃないか。そこに野営を組もう。近いのか?』


「いえ、違うのであります!そこからは密林の木々を切り開いた、、」

 『切り開いた?とは? 何か人の手に寄るような物言いだが。』


「そこに数軒の家、高い床、葦か藁でありましょう、屋根がついた、、」

 『人が住んでいるという事か?』


「いえ、まだ人がおるかは、、」

 『バカ!確認しておらんのか!』


ヴィンセントのせっかちな性格であろうか、兵の話の終わらない内に、全ての言葉に言葉を被せた。


 


 『まあ良い。人がおろうがいなかろうが我らはカジュを採りに来ただけの事。ただ、、』

「ただ?」

 

 『バカ!最後まで人の話を聞かんかッ!!』

「すみません。」

(自分だろ、聞かないのは、、)

 

 『もしかするとだな、、、ここに来るまで人っ子一人おらんかった。』

「はい。確かに。」

 

 『フランス軍を殺ったのが、この部族だとしたら、カジュを採るのも厄介やっかい。』

「えっ、小奴らがですか?」


 『となると、殺るしかないわな。』

「では、これから全軍でそこに踏み入りましょうか?」


 『バカ!待て!考えろ!奴らはフランス軍を打ちのめした部族かもしれん。』

「そうでありました。」

 

 『今から宵が始まる。』

「はい。暗くなってまいりました。」

 『今から夜駆けをしても、見つかったら奴らの思う壺。我らはこの地を全く知らんのだ。夜はマズい。』


兵達が見上げた深いオレンジの木立の空に、パタパタと黒い羽根の鳥が舞った。

 

 『暗闇から不意に襲ってくるかも知れぬ。ここを住処すみかとしておるなら簡単に逃げる事も出来るであろう。我らは不利だ。』


ヴィンセントはまだ腫れの治まらないあごに手をやって続けた。

 『朝駆けだ。全貌ぜんぼうが見えた方がこちらも組みし安い。まだ星の出ている未明。安堵あんどしている時刻であろ?』


「あっ、ですが、まだ人が住んでおるかは、、」


 『バカ!それが朝なのだ!全貌を見極めるという事であろうが!! 人がおらず廃墟であればそれはそれで良しであろう! それも含めての朝だ! 全くぅっ!』


このやり取りの間中、強者つわもの達の彼らでさえ己の足がワナワナと震えていることに気づいていなかった。


 

 『どうせ、明日の朝にはここをつ。今夜はもう良いっ!ここで野営だっ! 見張りは寝るなっ!この我ら一団を取り囲んで銃を構えておれっ!』


 木々や草。その鬱蒼うっそうと生い茂る暗闇のジャングル。

寝なかったのは見張りだけではなかった。

全ての兵が、背中から襲って来るような黒い影におびえ、まぶたを閉じる事がなかった。


  

 ただ一人。ヴィンセントだけは1500の兵に囲まれている安堵感からだろうか、倒木の丸太を枕に大鼾いびきをかいて眠りについてしまった。


そのいびきは密林の獣たちの鳴き声や遠吠えと何ら変わらず、ジャングルに溶けていった。

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