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殺戮と滅亡 67~ムルが見た太陽のお告げ

 カザマンス王国には暑い太陽の日が降り注いでいる。


 ファルの留守番。ニジェが仕切っていたこの国では、ムルを中心とする祈祷と霊媒が行われていた。

民は皆、ムルとそれを取り囲んでいた。

それとは、ニジェとギザ、アフィやナシャ、皆が手助けし造られたあしで組んだ巨大な物。

ムルはこれに命を吹き込む儀礼を始めた。


 民はそれぞれに〔グリグリ〕という袋を手にしていた。

グリグリとは、ヤギや豚の皮で作られたちいさな小物入れのような袋。

着用の仕方は腰に巻き付ける者あり、ひもを通して肩にかける者ありと様々だ。


 この革の袋の中は、その底を敷き詰めた小石、その上に自身の爪や髪、身の回りにある物を詰めたものだ。


 11世紀にこの西アフリカは、マリ帝国、そこからの行きかう旅人の影響からイスラムの文化も伝わっていた。この広がりがジョラやマンディンカにも広がり、グリグリという護符ごふの文化が根付いたらしい。



 ムルは巨大な葦組あしぐみの物の前に胡坐あぐらをかいて座った。

彼は呪文の様な言葉を流々と上げた。

それは御経とも歌とも取れぬ、流れる言葉の羅列られつだった。


ムルと葦組あしぐみを取り巻いた女子供、年寄りの150の民は、グリグリを両手で包み胸元に当てがった。

 民は祭り用の月型のブビンガの仮面を身にまとい、丸くいた仮面の眼からその様子をうかがった。




 ムルは長い呪文が終わると、胡坐あぐらの膝に立てかけてあった象牙の玉の杖を手にした。

その象牙の玉を、柄からパカと外すと左手に包み、天にかざした。


 真上の太陽が玉を黄金色に光らせると、その照り返しのプリズムが巨大な葦組あしぐみの一点を照らした。


「ニジェ。光の位置はこの辺りでよろしいか?」


 『はい。そこに命の息吹を。そこにまなこを。』


しばらくその光の筋を一点に当てると、葦は細い煙を立ち上げくすぶり始めた。


 『ギザ。そこに水を。』


ニジェがそう言うと、ギザは土壺に入れてあった水を、その煙の出だした箇所に垂らした。


 ジュ~


瞬く間に煙は消えた。


「ニジェ。太陽神の魂がたった今このあしに入りました。」


 



儀式はもう一つ残っていた。

それは出来上がった水路に水を流す事だった。


カザマンス川から引いた水。

出来た水路はまだディオマンシの檻の下で、ブビンガの太く厚い大きな板二つで堰き止められていた。

それを一気に上に持ち上げ、取り外せば、淡いピンクの城壁の外堀を埋め尽くす流れとなるのであった。



ムルは象牙の玉を、右手に持ち替えるとグルリと回し隅々まで眺め始めた。


 「んん、、」

ムルは首をかしげた。


「おかしいな。さっきまでこの葦を燃やすほどの光を放っていたのだが、、」


 『どういたしました?ムル殿?』

ニジェが胡坐あぐらのムルに聞いた。


「象牙が光らん。くすみおった。」


 『光らないと何か?』


「これ以上先に進むなという事だ。」


 『? という事は?』


「水路に水を流すなという事だ。「まだ堰き止めておけ」と言う太陽のお告げじゃ。」




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