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殺戮と滅亡 65~ファルの歌

 土造りの箱型。屋根はあしわらふき


 ファルの住んでいた家も同じであった。

しかしその屋根は床に崩れ、野ネズミのむしろ

外壁は、火の手が上がった集会所からの煙とすすなのだろう、東側の半分は黒艶色に染め上がっていた。

 

 オランダ軍は気づかなかったのであろう。

ンバイとマリマがパプやドンゴに連れ去られてからの一人暮らし。ファルは移住の地に向かう時、何一つ持っては行かなかった。

この家にはまだかすかな生活の名残りが残っていた。


 家族3人が残したそれぞれの食器や壺。

欠けてはいたが、そっくりそのまま棚の上に置き去りだった。


 部屋の隅には、屋根のわら半分被かぶったジャンベがあった。

くり抜いた木にヤギの皮を張った片面太鼓だ。

その横にはバラフォン。いわゆるこの地独特の木琴。


 グリオの証だ。


しかし木製のそれらは、ショウガラゴや野ネズミの爪や歯に今にも崩れ、粉砕しそうであった。

ジャンベの皮は穴が開いてしまっていたが、バラフォンの琴は数本残っていた。


ファルはそれを崩れぬ様に手に取ると、弓の柄で叩いてみた。


ポ~ン!


 懐かしくも綺麗なが家中に鳴り渡った。

空気に色がついた様な響きは、鼓膜の奥底に届いた。


バラフォンの琴の下には共鳴用に取り付けた瓢箪ひょうたんがまだ残っていたのだ。


 ファルがもう一度その琴を叩くと、それを最後にバラフォンはボロボロと、木カスとなってわらの上に落ちた。


 ファルは思った。

人間が作った物はいとも容易たやすく、あっと言う間に崩れていく。

しかし、あの木はどうだ?あの花はどうだ?

踏みにじられようが、つぶされようが、瞬く間に復生の狼煙のろしを上げ、そそり立つ。


 我らアフリカの民も同じだ。

西洋の侵略の民に滅ぼされ、殺され、息をしている者は豚やヤギよりもひどく扱われ、死ぬまで奴隷と言う名の洗礼を受け続けるのだ。


 


と、ファルは突き抜けた屋根を見上げると

歌い出した。





「我らカザマンスはモリンガや豆の花と共に生きている。

 息をするもの、差などないのだ。


 月と戯れ、星と遊ぶ

太陽と話し込めば、肌は黒くなる

この肌の色はお天道様と友達のあかし

自慢の肌だ 

雨が降れば泥を


風が吹けば両手を広げ

 鳥とともに歌うのだ

 



生きて来たのはカザマンスの民。

アフリカの民なのだ。

そう、太古の昔から、我々は友と一緒」




ファルはそこまで歌うと、兵の方を振り返った。


 『取り返そうぞ!!カザマンスの地! 我らが治めれば鳥も獣も花たちも皆、喜ぼうぞ!』


「必ずや!!」



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