殺戮と滅亡 60~淡く紫の花の群れ
ムルの旧家。十字と石の墓。
それを取り囲む靡く美しく白き花。モリンガ。
そこから幅3メートルの道が東に真っ直ぐに続く。
両側には石造りの家々。しかし葦や藁で造られた屋根はその家の中にズンと落ちていた。
時々、その藁の中からショウガラゴと言うネズミのような小動物が飛び出て他の家へとピョンと走り去っていった。
「ヴィンセント殿。どうやら人は住んでいないようでありますね。住めるような家ではないようです。」
「本当に疫病だったのか?」
「あの墓は、、、レノーもこの疫病にやられたという事でありましょうか?」
「墓を建てるというのは変だが、、」
「しかも、家という家。どこにも死骸らしきものが見当たりません。」
彼ら1500の兵は一通りその辺りを家探しすると、また東へと向かった。
「ヴィンセント殿。 この村は荒み切ってますね。この柵は家畜を飼っていたみたいですが、その骨も残骸もありませんね。」
「そうだ。今見て来た所全て。暮らしておる証拠となる物がない。竃に使う物。農作業に使う物。家は崩壊の廃墟だが、生活の類が無いのがわかったか?」
「あっ、ではここで亡くなったのではなく、、いや、亡くなったというか、、」
「移住だな。間違いなく移住だ。」
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「あそこに真っ黒な大きな建物が見えますが。」
兵の言葉にヴィンセントは顔を上げた。
「一際デカいな。二階建て?ここの王の家か?焦げているようだが、、行ってみるか? なにか手がかりがあるかも知れぬ。」
1500の兵は連なってその道の左手に曲がった。
するとそこに、石を敷き詰めた道が忽然と現れた。
前方に見えたのは黒い宮殿を取り囲む黒い土塀の城壁。
「あそこが門だな。土塀が大きく開いておる。」
「入ってみましょうか?」
「ああ、行ってみろ。」
兵はその土の城壁まで向かうと人差し指で壁をなぞった。鼻元に近づけるとその臭いを嗅いだ。
「やはり煤ですね。燃えたようです。」
彼の鼻は狸の鼻のように黒光りした。
数人の兵が壁伝いを通り、門の前に立った。
「おー!」
「わあ~!」
目の前に広がったのは、またまた美しい花であった。
門から宮殿入り口に向かう一本道は薄く淡い紫の絨毯。
天に向かう黄緑の蔓。濃い紫の花弁を覆う白い花弁。それが一輪。
アプローチを紫に埋め尽くした花の群れは、彼らを誘うように、門から入り口へと風に揺れていた。
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あの時、フランス軍を撃退する為にニジェとガーラ達が敷き詰めたレンズ豆。
焼きつく事を逃れたその豆は新たなこの土地で、この宮殿の前で息吹き満開の花となった。
それはジョラの村に咲いた初めての紫の花であった。
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「この建物の中。入ってみろ。」
「はっ!」
※レンズ豆
人類が利用した最古の豆。
エジプト紀元前2000年の墳墓にもレンズ豆が収められていた。
蔓を長く伸ばす事から、花言葉は「必ず来る幸福」・「約束」
※ショウガラゴ
西アフリカなどに生息する霊長類。
体調15~17センチ
忍者の様に餌を探して飛び回る。メガネ猿を小さくした感じの小動物。