殺戮と滅亡 59~白い花
オランダ軍は降り立った。
ようやくの地。ジョラ。
しかし、カジュはこの先。
平地は荒れていた。これがこの部族の生活の場なのか、はたまた本当に疫病に侵されたのか。
聞えるのは空洞の風の音。それに乗る鳥のさえずり。水路らしき穴の道は、水の一滴さえなく、獣道のそれとなっていた。
オランダ兵は、ヴィンセントの命通り舐めていた。
人が居ようが居まいが彼らにとっては大した事ではない。
この砂の舞う地を、ただ通り過ぎればよいだけだ。
近寄る者があれば縄を掛ければ良い。向かってくる者があれば、引鉄を引けば良い。
「ヴィンセント殿。これはまだここに人が住んでいるという事でありましょうか?」
「なんだ?ここだけ花壇の様になっておる。」
「これは家でしょうか?」
人の背丈ほど。真緑という名が相応しい丸い葉。
風に揺れていたその沢山の白く小さな花。満開に束なった花弁は光を放つ星の形。
その数メートル四方の一角だけ、何かを取り囲む様に咲いていた。
「なんと美しい花だ。」
強い風がザッと吹いた。その白い花をつけた若く細い木は、風に煽られ斜めに頭をもたげて大きく揺れた。
「ん?あれ?今。見ましたか?ヴィンセント殿。花の中。」
「ああ、見た。十字架ではないか?」
「はい。そのようであります。」
「ちょっと、見て来い。」
命令された若い兵数人は、4本の朽ち果てた柱を取り囲んでいた白い花の咲く木の群れに向かうと、そのか細い幹を掻き分けた。
目の前に現れたのは十字になったカジュの木。その横には立ち上がる大きな石。
「ヴィンセント殿。これは何やらお墓のようです。」
「しかしこの地に十字架とは、、おかしいじゃないか?」
「こちらの十字架。なにか文字が記してありますが、、R.e.y.n.a.u.d。フランス語ですね。」
「フランス語?どれ。」
「あっ、ヴィンセント殿はフランス語がお分かりで?」
「バカにするな。」
ヴィンセントもその白い花の中に分け入った。
「、、えっとぉ? 何だってぇ、、R。e、、、レノー、、レノー、、レノー。レノーぉ?!」
「レノー?!えっあのフランス軍きっての英才レノー大佐の事でありましょうか!?」
「しかも、この隣にある石の建て方はこのカザマンスのアミニズム。どうして両輪として並び建っておるのだ?」
「レノーはここに来て殺されたという事、、ですか?」
「小奴らは文字を持たん。この十字に記すすべを持っておらんはずだ。」
「誠。不思議。」
「意味がわからぬ。」
「しかも、この墓らしき建物。白い花の木に守られていたようです。
他の柱らしき物のようには朽ち果てず、この十字の文字もしっかり読み取れています!」
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このレノーとアクラの墓を建てたニジェとマンディンカの民は、あの時ここに蒔いたのだ。
モリンガの種であった。
※このお墓については
火蓋の上下31~プラウマになったアクラとレノー
火蓋の上下43~レノーの十字架
を今一度ご参照ください。
※モリンガ(日本名・百花)
モリンガはアフリカ原産。地球上で発見されている植物の中で一番高い栄養価を持つと言われています。
真夏に小さな星型の白い花を咲かせます。
ジャスミンの様な甘い香り。花は食用(天ぷら等)にも使われます。
花言葉は「嬉し涙」・「目覚め」
種を撒けばその年の内に沢山の二酸化炭素を吸収し、その栄養価と環境修正能力は、発展途上のアフリカで暮らす子供たちの命を救っているといわれます。