殺戮と滅亡 57~ジルちゃん・ディオちゃん
ファルはブラルとバズに内緒にしておけと言っていた事があった。
それは血の付いた矢。
己の左肩を刺した矢だと知ったらマンサは悲しむだろうと思ったからだ。
その矢はファルの血痕と共に、ブラルの矢筒の中に納めてあった。
『で、お前ら!わしをマンディンカから連れ出しどうしようというのだ!?』
ジルベールが言った。
「どうするも何も、俺達にとってはお前は大罪人。」
ワリが口を出した。
『今行ったオランダ兵はどうするんだ?』
「助けてあげるみたい。オランダに戻してやるらしい。」
『なんだってぇ? あの一兵卒をオランダに帰して、わしは山奥に連れて行かれるのかい!』
「だ・か・ら。お前は罪人!オランダ兵はまだ何もしてはおらん!!しつこいおっさんだなぁ。全く。うちのディオとそっくりだ!」
『ディオ?、、ディオマンシの事か?』
「よくご存じで。」
『当たり前だ!奴隷狩りをする村の王くらい調べ上げておるわ!』
「今はもう王ではないよ。ま、仮の王だけど。」
『どうしたんだ?お前らはディオマンシの命令でここに来ているのではないのか?』
「ほら、俺達さ、疫病だろ?」
『あっ!そうであった!マズいマズい。わしに近寄るな!』
「どうやらさ、疫病にかかっていたのはディオマンシだけだったみたいでさ。そう、頭ん中にバイ菌。で、檻に隔離してんだよ。」
『ではお前らは疫病にかかってはおらぬのか?』
「みたい。少なくとも頭ん中はねっ。」
『ではでは、バスチアは騙されたということか?』
「みたい。」
『情けない、、、あのバカ、、』
ジルベールはしつこく続けた。
『とにかくだ!わしをこのまま連れて行ってどうすると言うのだ!』
「さあね。マンサ様に聞いてみれば?」
『女子にか?』
「女子と言うな!マンサ殿!、、マンサ姫だ!」
「おい、ワリ。お前までマンサ姫と言うな。」
マンサは笑った。
『女子。わしをどうしようと言うのだ?』
「なっ、こいつ、しつこいだろ?」
ワリが上目使いに言った。
「お前は多くの部下を使い、このカザマンスの地のみならず、この西のアフリカを我が物にしようとしたであろ?
数万の民を死に追いやり、奴隷を狩り続け、南米や北米、はたまた母国にも送り込んだ。罪は軽くはないぞ!」
「そうだ!そうだ!
アゾとワリが拳を上げて叫んだ。
「しかしだ。これからオランダに立ち向かうのは我らだ。その戦闘に負ければお前も当然一緒に死ぬことになる。勝ったとしてもだ、、我が王国の檻の中。いずれにせよ自由の身ではないな。」
「聞いたか!ジルちゃん!お前は生きていても、うちのディオちゃんと抱き合って檻の中だ!」
ワリとアゾが笑いながら手を叩いた。
『ジルちゃんだとぅ!』
「じゃ、ジル君。」
『一緒に檻の中ぁ~?ふざけるのもいい加減にしろ!そ奴の疫病が移るであろうがっ!』