殺戮と滅亡 54~山越えの理由
マルーラの木をくぐり抜け、何日という日が経ったであろう。
朝とも夜ともつかないジャングルの奥地。代わる代わるの2時間ほどの睡眠。
オランダ軍は時を計るすべさえ失くしていた。
しかしその強行軍は、ファル達の足を持ってしても追いつくには到底無理な速さであった。
モリンガの道を知っているとはいえ、フランスが二年がかりで越えた山々。
なぜ、越えていけるのか。
それは数日あれば越える事の出来る山であったからだ。
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この山をジョラに向け最初に行軍したのは、フランス軍レノー大佐であった。
ジルベールの命により、ジョラの民を奴隷にするのが最初の目的であった。
しかし、この奴隷化に反発していたレノーは考えたのだ。
この地の部族の暮らしをいかにして守り、我がフランス軍の兵をこの森で戦わせずに、済ませられるのか。
彼はジルベールに嘘をつき続けたのだ。
一つ目の山の中腹に野営を組み、そこで兵達としばらくの時を同じくした。
そして数日の後、彼らはまたマンディンカに戻りジルベールにこの突破は無理だと言う報告をした。
レノーは兵を連れては山に入り、出てはジルベールに断念の報告をし続けた。
呆れ果て、こいつでは無理だと思ったジルベールはそのレノーの反感とともに、隊の頭を挿げ替えた。
それが、フランス軍中尉バスチアであった。
彼は、このオランダのハイエナ・ヴィンセントにも負けず劣らずの剛腕。
自分の兵に(むち)を打ち続け、この地の奴隷と変わらぬ扱いをしながら行軍した。
バスチアは難なくこの山を越えたのだ。
レノーはと言えば単なる補給部隊の隊長という地位に成り下がった。
彼は自分の部下だった兵に、食糧を運ぶという役職に何の恥も感じなかった。
むしろ少しでも彼らの為の手助けが出来ればと本望であったのだ。
それを知っていたのが、水門を開けにカザマンスの川に向かった二コラ達の兵であった。
つまりレノーの死はフランス兵達にとっては、空前の灯であったのだ。
二コラは思っていた。
レノーの死はこの森の部族が悪いのでは無く、この地を奪おうとしている我らが悪いのだと。
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山道が少しずつ下り出した。
すでに二つ目の山。
「おい!お前!!その木に登れ!」
ヴィンセントは近くにいた兵を呼び寄せるとそう言った。
「その一番高そうな木だ。山の下が見える所まで登るんだ。」
「えっどのようにして?」
「何がだ?」
「いえ、最初の枝が数メートルも上。攀じ登ろうにも、、、しかもこの密な林。上まで登っても他の木に邪魔をされ何も見えぬかと、、、」
狂った兵に蹴り上げられたヴィンセントの膨れた顎の中から唾が吐かれた。
瞬間であった。
その口応えした兵の胸元にヴィンセントの銃が放たれた。
パ~ン!パッパ~ン!!
※本日(3月11日)
もう一話投稿します!
殺戮と滅亡55となります!