殺戮と滅亡 52~血をつけた矢
「ああ、そうだ。俺は奴に一度文句を言ってやりたかった。バカになった振りをしてまでもな。このままカジュとやらの木をこの地から持ち出せば、奴は英雄。そんな事は許されん。」
「ん?誰?奴?とは?」
「このオランダの先頭部隊の隊長だよ。ヴィンセント。」
死を覚悟していたこのオランダ兵は何もかもをしゃべり出した。
サバは全てを聞き出した。
「兵はどのくらいおるんだ?」
「1500だ。」
「武器は?」
「銃だけだな。けどな、奴は自分が恨みをかっている事を自らがわかっていて、自分の信頼する班長にしか実弾は持たせておらん。あと持っておるのは後尻の兵が数名だ。」
「お前を撃ったのは?」
「そのヴィンセントだ。当たったのはこの一発。下手くそめが。」
「なるほど、ではカンビヤの川。あの3艘の船に乗っておる者は?」
「たかだか、、20人ほどですか。」
「お前全てしゃべっちゃう所をみると、よっぽどそのヴィンセントという奴の事が、、」
「ああ、大嫌いだ!俺は死んでもいいから奴に言ってやりたかったのさっ。」
「なんて言ったの?」
「アホンダラ。」
聞き取れるサバだけがアハハと笑った。
「ところで、お前何という名だ? これからどうする?」
「名はハーン。 これから? ここで野垂れ死にだ。」
サバはここまでを、ファルに話した。
『オレにいい考えがある。こいつにオランダに帰りたいか聞いてみてくれ。』
ファルがそう言うとサバはその通りハーンに聞いた。
「それはもちろん!国には女房も子もいる!、、けど、まっ帰れればの話だろ?」
『わかった。』
それを聞いたファルは背にしていた矢筒から一本の矢を引き抜くと、腕の無い自らの左肩をその刃先でグサリと刺した。
真っ赤な血が流れ、その矢の柄にまで滴った。
『これを。この血の付いた矢を持って参れ。カザマンスの川にいる3艘。その海軍兵に足の傷跡と共にその矢を見せろ!
そして言うんだ!オランダ軍はこの地の部族に壊滅されたと!それが!その矢が!証拠だと伝えろ!』
「どういう事ですか?」
『ここに居たら時期に奴らが襲って来ると! その20の兵に! 部族は700の兵だと!』
「して?」
『取って返すんだ!舳先をカンビヤの下流に向け、オランダに帰れ!』
「帰ると、、」
『そうだ。オランダ軍の1500。逃げる道。帰る道は閉ざされる。』
「なるほど。」
それにはサバも唸った。
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『しかし、、、痛たたた。ブラル、悪いがオレの分もモリンガを採って来てはもらえぬか?』
「手荒な真似をするから、、はいはい。かしこまりました。」
ポイッ
「ヴィンセントとやらも、ファル様もやるこたぁ、荒くれてますね。」
『一緒にするな!』
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オランダ兵ハーンは、ブラルとバズに両肩を支えられながら、オランダ船のあるマルーラの木の麓へ向け帰って行った。
『途中マンサ達に出会ったら、事の顛末を伝えて、モリンガを補充してやってくれ。頼んだぞ!』
ハーンの血の付いた軍服のズボンを涙が上塗りしている様であった。
サバは思った。
(ファル。とてつもなくデカくなった。)