殺戮と滅亡 45~バブエの尻込み
「アラン。なんだい?あんな所におおきな壁?家が?川の上であろ?」
「マンサ様は見た事がございませんね?」
「だって、ここはジョラとマンディンカ人しかおらぬはず。」
「あれがオランダの船ですよ。」
「えっ、船? 私は筏しか見た事がないゆえ、、あれは沈まないのかい?」
「先ほどの我が軍のフランス船も、このくらいの大きさ。瓦礫の山を見ればお分かりだと思っておりましたが。」
「ただの木屑じゃ、わからん。」
「しかし、これが川や海に浮かぶのなら、それはそれは遠い国にも難なくゆけるのも分かる。」
マンサがコクコクと頷いた。
バブエが話に割り込んだ。
「これで、オランダは黄色い人種の国にまで行っておるんだ。」
「フランスの俺達はよくは知らぬが、黄金の国ジパングってとこかい?」
アランはまだ見ぬ果てに好奇心を持った。
「そう、そんなとこでも奴隷を狩っている。」
マンサとアランは驚いて、バブエの口に耳を傾けた。
「それがどうしても許せないジパングは、鎖国といって国に鎖を掛けたのだ。」
「国に鎖?どうやって?」
「そんな事は知らないが、とにかく国を閉じた。今から200年、いやもっと前? 他国には違う理由をつけて閉じたが、鎖国の本当の理由はそれだ。民を奴隷としてヨーロッパ中に捌かれたからだ。」
「あのぅ。もうよろしいでしょうか?この辺りはオランダ兵がいつ出て来てもおかしくないので、無駄話はご法度でお願いしますよ~。も~。」
カロだけが慌てふためいていた。
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「これがモリンガの入り口。マルーラの木だ。」
ハラが皆に伝えた。
「ここを入るのかい?」
マンサはその木を見上げた。
「ここを入るのかい?」
バブエとアランもハラに聞いた。
「そうだが。何か?」
「俺もアフリカの男なのだが、なにしろダカールの都会育ちで、、」
「は?バブエ殿は植物学者であろ?それなら興味津々かと。」
「いや、これはもう、、なんていうかぁ、、ただの闇。これでは夜が明けても真っ暗であろう? 闇の中で猛獣に取り囲まれておるというような、、これは地獄の入り口ではないですかぁ? 」
「まっ、そんなもんだ。」
「ハラ殿やガーラ殿はここを抜けてマンディンカまで?」
「、、あのさ、バブエ殿。本ばかり見て研究しててもダメ。ここにも生えてんの植物が。それにこの暗闇も俺達の住処なの。これがふ・つ・う。」
「恐くはないのですか?」
「大丈夫!弓一本あれば何とかなるもんだよ!ついて来な!」
「は、はい。」
この密林。あの強気なバブエでさえ尻込みをするほどの黒い壁であったのだ。
「なにか襲ってきたら、バブエ殿を生贄にして差し出すから安心しな!」
「安心と生贄は相反する!」
「真面目に答えなくて良いよ。」
「ね、皆さん。もうそろそろ前を向いて歩きましょっ。」
カロがうなだれて言った。