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殺戮と滅亡 44~鼓膜を叩く暗闇の遠吠え

 ヴィンセント中尉率いるオランダ先頭部隊。1500。

数々の戦闘をものにして来た彼らだが、それはスペイン、フランス、ポルトガル。

当時の近代諸国におけるそれであった。

 平坦な地での戦い。敵はその国の兵だけであった。


 彼らオールト少将の軍は南米の植民地争いの援軍として向かうところ、バンジュールからゴレ島経由でこの地に来た。オランダから直接西アフリカに乗り込んだ。


一方、密林のアマゾンを経験した南米帰りの1万の兵は、既にマンディンカでアコカンテラの毒に壊滅した。

 

 つまり、ヴィンセントの部隊においてこのジャングルは初めての経験であった。



 


 軍靴の中にはどこから入り込んだのか、足指の間の隅々にまで泥が詰まっていた。

口を開けば、風に舞った得体の知れぬものが入り込む。虫なのか、種なのか。


 夜中の獣の鳴き声は地響きの騒音になって鼓膜を叩く。

木々の間から漏れた少しの月明かり。照らされた葉が風に揺れる。足元にその影が映ればクネクネと這う毒蛇と見間違う。



 ヴィンセントの部隊はこの地で戦うつもりは毛頭なかった。

ただ、カジュという木をいで来るだけ。


  「ここには、もう人は住んでおらぬのだ。」

彼らはそれを信じ込んでいた。


 それゆえにほとんどの兵は、実弾の入っていない銃だけを携帯していた。

弾を詰めていたのは、50人ばかりの班長という位のものだけだった。


 それにはもう一つ理由があった。ヴィンセントである。

彼は自軍の兵達が自分に敵意を持っている事を少なからず知っていた。簡単に武器を持たせたら自分がやられる。本格的な戦闘状態にでもならない限り、末端の兵には武器を持たせなかったのである。





「目が、、瞼が落ちて来る。」

 「寝たいな、、」

「ああ、眠い、、」

 

 行軍が続けばもちろん兵は眠くなる。

勝ち続けた者にはすぐに睡魔が訪れる。安心と言う名の染みついた睡魔。


 負け続けた者には容易く眠りはやって来ない。寝たら一巻の終わりという事を知っている。

これがこのオランダと、この地の部族との睡眠時間の違いだ。

 オランダ軍はこの恐怖の夜でも習慣的に瞼が落ちる。



 

 敵は人間ではないのだ。

襲って来るのは暗闇。遠吠え、何かが羽ばたく音。足元をスルリと抜ける姿のわからぬもの、、、人間ではない定まらない敵。



 「おい!眠るんじゃない!歩くんだ!」

ヴィンセントの白い羊革の鞭がしなった。

兵の尻を叩いた。

 

 「こんな所で休憩なぞとってはおれぬ!とっととカジュを見つけ出し、いち早くオランダに戻るのだ!さっさと歩け!」


その冒涜ぼうとくと彼らの体躯たいくは、カザマンスの民をもってしても追いつくことが出来ないであろう行軍であった。

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