殺戮と滅亡 42~ハイエナと言う名の中尉・ヴィンセント
カンビヤ川に枝垂れ落ちるマルーラ。
そこがモリンガの道の入り口。しかし、道と言っても道は無い。
名も無き赤い花。人の背丈ほどある立ち昇った厚い葉。大木に覆われた密林には昼間でも日向の存在は薄い。時には夜の様に、ある時は閉じ込められた檻の様にその山は刻々とその姿を変貌させる。
高く険しい山だ。
この山を登り、東の斜面に下ると、また同じような山が目の前に現れる。
そう、この二つの山を越え、下り切った所に旧のジョラの村があった。
その地は突然の乾燥地帯。
ただ、彼らはカザマンス川の恩恵を受け、6000年、あるいは7000年も前からこの地で穏やかに暮らしていた。
しかし、カジュの実が採れたのはここでは無かった。その東、小高い山を越えた水溜まりの様な湿地に群生していた。ここが、ジョラの一族がフランスの侵略から逃れた地だ。
いわゆるファルが王となったカザマンス王国だ。
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「ほ~ら~!!ほら!急げ!!何をもたもたしておるんだ!ぶっぱなすぞ!」
密林の木々に木霊したのは、オランダ海兵隊オールト少将の配下、ヴィンセント中尉の怒鳴り声であった。
常に戦争の先に立ち幾つもの殺戮を繰り返してきた、通称オランダのハイエナ。
それがヴィンセントだ。
先頭部隊の彼が、ゴレ島からの書を持っていたのは容易に想像できる。
彼がその道を見出す先頭部隊という役割だからだ。
ゴレやダカールからの情報では、この先の部族は疫病により壊滅したという事。
しかし、フランス軍バスチア中尉はこの地で謎の部族に襲撃され壊滅したと聞いた。
オランダ軍にとっては、矛盾する話となったのだが、この部隊の総隊長オールト少将はこう思った。
フランス軍はこの部族に殺られてはいないのではないか?
疫病という話が広まれば、ここは無人の村。カジュの情報を聞きつけたヨーロッパの諸国でもあれば、必ず介入して来ると。
そこでジルベールは疫病と言う話に上塗りする様に、フランス軍でさえ壊滅に至った恐ろしい部族がいるというデマを流した。
オランダ軍はそう読んだのだ。
もしかしたら、疫病すら嘘ではないかと。
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ガタガタガタ
「おい!お前ぇ!なんだその足の震えは!」
「いえ、今。なにかぁ、、あのぅ、、猛獣の遠吠え様な声がしたものですから、、」
「何を怖気づいておる!とっとと前を向いて歩け!遅れたら足手まとい!殺すぞ!」
ヴィンセントがハイエナと呼ばれたのは、この荒い気性。人を人と思わぬ人格。
部下の手柄を根こそぎ自分のものとし、その口を割らせぬ為、自軍の兵でありながらも銃を乱射し殺害する。
彼こそが獣同然の体であった。
カンビヤ川を戻ったオールト少将もいない先頭部隊は、
ヴィンセントの一人舞台になった。