殺戮と滅亡 37~オランダ船の灯り・マルーラの神木
バシャバシャバシャバシャ
ファルとサバ、が走った。
先頭は千里眼。
カンビヤの岸は350の水しぶきが上がった。
その塊りは、まるで黒く巨大な魚が、産卵に向かいウネウネと激流を上って行くようであった。
『急ぐぞ!!急ぐ!飛び跳ねろ!!』
「ゆけゆけ!後を追え~!」
「俺達が追う立場になるとはな~!」
「いつもいつも取り囲まれておったからな~。」
「久しぶりの武者震いだ‼」
「必ず打ちのめ~す!」
兵は口々に声を上げ水面を蹴った。
ピタっ
「は~い!止まって止まって~!そこにしゃがんでくださ~い!」
千里眼が後方の兵を振り返り、両手を大きく広げた。
兵は口を閉じ、ススとその場に腰を下ろすと、辺りは一瞬の内に静まった。
「見えますか。ファル王様。サバ王子様。」
千里眼はクルリと上流の方に向き直ると左腕を上げ、人差し指をその先に向けた。
「船の灯りです。」
葦の茂る隙間から遠く、高い位置にぼんやりとだが、幾つもの灯りが見えた。
『兄上。この辺りにこんなに光るものはない。』
「船室の灯りだ。」
『奴らはまだ下船していないのか?』
「兵が降りても、船の留守番はいるであろう。海軍だ。俺達みたいに船だけを放っては行かん?」
『なるほど。しかしなぜ、兄上は船をほっといたんだ?』
「命がけとはそういうものだ。ファル様がアコカンテラの筏をほおって来たのと同じ事。」
『だから誰もいなかった兄上の乗って来た船は、爆破されても皆無事であった。』
「ファル様の乗り捨てた筏は、その毒を撒いた。」
『そういう事だな。』
「で、どうします?ファル王様。」
「へへッ大丈夫でありますよ。」
『何が大丈夫なんだ?千里眼。』
「あそこに。そうです。岸の水面に浸かんばかりの巨木、一際大きなマルーラの木です。」
その木は自身の幹では支えきれないほどの枝を抱えていた。山に向かう枝。川に下る枝。
そこからの芽吹いた無数の葉はその重みに耐えきれず、新葉の群れを川面に浸けていた。
東から西に流れる川面の波がその葉をユラユラ、ザザと揺らしていた。
満月の光は、その揺れさえ明確に捉えていた。
『マルーラ。それが?』
「樹齢500年はございましょうか?昔の人はよく考えたものです。」
『ん?あっ。』
「つまりあそこがモリンガの道に通ずる入り口。きっと先々までの目印にとしたものでありましょう。」
『そこに植えたのか?』
「いや、生えていた所を入り口とし、目印にしたのでありましょう。」
『あのオランダ船より手前。奴らに気づかれずモリンガの森に入れる。』
「その通りであります。」
『我らにとっては神木。』
「まさにであります。」
『それを目にする事が出来たのは。』
「満月という神です。」
『向かおう!!マルーラの神の下に!!』
「モリンガの道に入りましょう!」