殺戮と滅亡 34~洞窟はオペラ・ガルニエ
「そうなんだよ。ファルが私とワニの間に入って。」
「さっきサバ様が言っておられたマム・ジャーラのことですね?」
バブエがマンサに問うた。
「ん?なんだい?マム・ジャーラ?」
「はい、サバ様がおっしゃるにはこのカザマンスの神という事らしいのですが、、ご存じない?」
「ご存じないです。」
「その神が?」
「筏の上に背上がって、ファル様の腕をパクリとやったかと思うと、グルリと体を回して引き千切って行ってしまった。ま、その後、アコカンテラの猛毒に腹ばいになって浮きあがって来たんだが。」
「ファル様は抵抗なさらなかったのですか?」
「いや、それはやったさっ。持っていた銛で右目を一突き。ワニは怒りに震え、立ち上がったかと思うと、その瞬間ガブッと、ファルの腕を。」
「神の眼を突き刺してしまったという事ですね。」
「その代償がファル様の腕になってしまった。」
マンサとバブエの近くを歩いていた者は、時折二人の顔にランプを掲げながらその話を聞いていた。
ンバイとマリマも自分たちの息子である王と、カザマンスの神とのやり取りを、そば耳を立て聞いていた。
マリマが10個目の井戸の下に来た時であった。
その上から落ちて来る月明かり。
円筒のサファイヤの光の真ん中に立った。
そして両手を広げ唄い出した。
鍾乳の星と、地を流れるガラクシアはそれを歓迎した。
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神よ。
あなた様に差し上げた
我が王の腕
あなた様から頂いた
その琥珀の眼
あなた様の眼を王の片腕に
乗り移った魂は いつか火を吐く
その残された一つ眼を
虹色の眼に変える時
神と王とは結ばれる
悠久のカザマンスは
高低緩急 るると流れる
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マリマの3オクターブの歌声は、洞窟内の端から端まで鳴り響いた。
鍾乳の木霊はそれを輪唱し奏でた。
「なんたる歌声!!これはまるで!!」
「まるで?」
「まるで、オペラ・ガルニエの劇場の如くだ!!」
フランス人のアランが言った。
カザマンスの民、皆が忘れていたグリオの美しい歌声であった。
聞き入っていた一人の若い兵が言った。
「俺達。戻れるんだな。」
天からの青い円柱の光は、彼らの口元の緩みの皺を映し出していた。
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『残る井戸はあと二つ。満月のおかげでよく見える。』
「ああ、ファル様。私達は運が良い。なんの手も下さずに勝ち戦。帰りは月の明かりが煌々(こうこう)と照らす。」
『確かにな。』
「で、この辺りから道が下るはず。昼間なら機帆船のフランス国旗が靡くのも見える。」
『けど、オレ達の眼ならこの明るさであれば見えるはず。』
「ちょいとお待ちを。」
カロがバスチアの船の帆を畳んだ時の様に、スルスルと近くの大木に登った。
「ん~、川が見えます!見えます!月の明かりが水に照り返っているのでよく見えます!フランスの、、、ん~。旗、旗、旗と、、国旗、国旗と、、」
「見えるか?カロ。」
サバが聞いた。
「、、、いえ。国旗どころかあの大きな船さえも、、」
※オペラ・ガルニエ
フランスのオペラ座の事であります。