殺戮と滅亡 33~月明かりの柱
『オレはマンディンカを見ながら戻りたい。』
「洞窟には父上様と母上様がおられますよ?それに愛妻マンサ様も。」
ハラがファルに聞いた。
『どうせ、カンビヤ川に出るまでの辛抱だ。それにランプだけの闇では顔もよく見えぬ。』
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「バブエ殿は植物学者。なら、、学者という気質上、洞窟に入ってみたくはないですか?」
サバはバブエに聞いた。
「それはもちろん!どんな世界なのか一度この目で見てみたい。それとジルベールとかって奴の顔も見てみたい。」
「そうか、では下をゆけばよい。俺はファル王様と上をゆく。積もる話もあるし、なにしろファル王様は自分が生まれたこの大地を踏みしめて帰りたいらしい。」
浸透してくるであろうアコカンテラの毒を恐れたファル達一行は、ファルとバブエが入れ替わり、早々にカンビヤ川に向かう事にした。
しかし既に日は西に傾いた。
オレンジ色と濃紺が混ざり合う空の下に、燻ぶった黒煙の波が地面を這った。
気づけば巨大な満月が、皆が見上げた真上にあった。
『マンサ~!オレは上をゆく!下は頼んだぞ~!』
ファルはアクラの床下から、暗くて姿も見えぬマンサに声を掛けた。
「なに?なに?なに~?突然なんだい~!」
『だからオレは上を~、、』
マンサはファルの言い切る前に声を被せた。
「あのさ~!上はどうなってんだい! フランスは?オランダはぁ~?」
『あッ』
「もう誰もいないんだろ?その報告が、先だよ!さ・きっ!」
『ごめん、ごめん。ワニがやっつけてくれたみた~い~!。オランダもフランスも食われたみたいだよ~!』
「ワニ?」
『そう!カザマンスの神様~!』
「わけがわからぬ、、で~このジルベールとかっておっさんはどうすんだい~?」
『一緒に連れてってくれ~!』
「やっちまわなくていいのかい~!?」
『カンビヤの川に着いたら、ワニのご褒美に餌として差し上げるのでな~!』
「ほ~、そいつはいいや!ハハハハハッ。」
マンサは分かっていた。分かっていたから笑ったのだ。ファルはこの将軍を殺す気はないと。
『今、ハラとドルンを下ろすから~!と、それからもう一人学者さんも~!』
「学者?」
『しかし今からでは、、、夜では動くのは無理であろう~? 日柱が立たんであろ~!』
「ファル様!ご心配なく~! とても美しいサファイヤの如し青い月柱が立っております~!』
夜の洞窟は暗闇を増していたが、舞い上がるような月明かりの青い柱が煌々(こうこう)と、両川の先の先まで連なっていた。
『月明かりの柱、、、サファイヤ?』
ファルの隣にいたバブエが床の羽目板から、身を乗り出した。
「降りる!下をゆく!見たい!月の柱を!」
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上から綴れ落ちる鍾乳石は皆の持つランプの灯りを映し出し、洞窟の天井を満天の星空に変えた。
その照り返しを受けた洞の川は、ガラクシアへと変わり流れて行った。
(ファルにも見て欲しかったな。)
マンサは思った。
※ガラクシア=天の川
以前にも述べましたが、ギャラクシーの語源となった言葉と言われております。