殺戮と滅亡 31~ニジェにギザ、コリにサニヤにエトセトラ
ファル達カザマンス王国の兵150がこの地を出陣して、一か月余りが経とうとしていた。
村には雨は来なかった。
この時期には決まって降る滝のような雨は、密林の地を翳める事無くサハラへと抜けて行った。
密林とはいえ雨量の少ない日々。
熱射が照りつける毎日であった。
『なあ、ギザ。楽しいか?』
「ああ。ニジェよりも早く作れるのさッ!夜が明けるの待ち遠しいよ。」
ギザはもちろん、残された女や子供、年老いた者150人余。皆せっせと日干しブロック作りに勤しんでいた。
縦20センチ横30センチほどの木枠に泥を押し込み、乾かすだけの作業であったが、皆井戸端の会話を楽しむ手は休めなかった。
一人の者が日に100個は優に作り上げたのは、この木枠を考えたギザのお手柄であった。
一日に一人100個を150人が作ると15000個にもなった。一か月では45万。
ブロックの一つ一つに3センチ大の石ころを埋め込んでいったのはニジェの考え。
皆はブロック強化の為だろうと思っていた。
半月も経った頃には、宮殿前の赤土のそれには巨大な落とし穴が出来ていたほどだった。
ブロックを30段積み上げるとその高さは6メートルにも及んだ。
それが宮殿を取り巻くには、45万のブロックは有り余るものであった。
熱波でいとも簡単に乾いたブロック。
出来上がった順に積み上げた。
泥を捏ねたのはロダにセグ、ヘレ。それをブロックに塗りつけ、梯子を使いながら積んでいったのは、コリやメッサそれにサニヤ。元はディオマンシの夫人達だ。
彼女たちもまた楽しそうであった。
コリの顔についた餅の様な泥をメッサがサッと拭き取ると、下にいるセグ目掛けで放った。
セグはそれをヒョイと避けると、下で捏ねていた泥をメッサに投げつけた。
『おいおい、何を遊んでいる?早く積まぬと繋ぎの泥が乾いてしまうであろう、、』
と言ったニジェの頭にまるで鳥の糞の様に、ペタと泥が落ちて来た。
コリの仕業であった。
彼女達の築いた赤土のブロックは、日増しにその色をピンクの城壁に変えていった。
『なあ、ギザ。もう一つ頼みがあるんだが。』
「なに?楽しいことならいくらでもやるよ。ニジェ。」
『作る事が好きならきっと楽しいよ。』
「へ~、なにを作るんだい?」
『でっかいもの。』
「おもしろそうだな。」
『お前は天才だからな。きっといいものが作れる。』
「で、なんだいそれは?」
『二人の秘密にしよう。』
「ふふん。ひみつってのが好き。」
『だろ?』
「どうしたらいいんだい?」
『裏の水路からちょっと入るとカザマンスの川の支流。』
「支流?」
『ああ、小さい川のとこ。』
「わかる。」
『そこに生えている葦を根こそぎ刈って来よう。まずはそこから。秘密はその後教えてあげるよ。』
ギザは立ち上がると泥まみれの手をそのままに、パタパタと裏手に向かって走り出した。
『急ぎ過ぎだけど、天才の上、行動力も人一倍だ、、』
ニジェはニコリと笑った。
※ギザは私にとっても可愛い存在です。