殺戮と滅亡 16~洞窟を流れる水
『もし、アコカンテラを流していたら、この雨。どこに流れ込んでいたか分からない。フランスどころか我が兵も壊滅していたな。なにしろ触れただけでも死に至る猛毒だ。』
「水門が閉じられていて良かったのかしら、悪かったのかしら。」
ファルとマンサが洞窟の奥を覗き込んだ。
暗闇の地下の水面。その先を一か所だけ光らせている丸い薄明かりが見えた。
「あれがきっと、二コラ殿が言っていた日柱ね。」
『地上では井戸の様になっているらしい。とすれば大量の雨水が流れ込んでいるはず。』
「行かれますか?」
ファルは先頭を切った。
すでに地下の水の音は耳に入っていた。川のように流れる音。
入り口の足元の岩肌は大量の苔が生え、外からの光と雨水に濡れたその輝きは濃緑の糸を紡いだベルベットの絨毯のようであった。
ファルは弓矢と銃をマンサに預けると、洞窟の入り口に縄梯子を掛け、ゆっくりと地下に降りて行った。
マンサと兵はその様子を上から覗いた。
「ファル様大丈夫ですか?右腕一本で。」
マンサの声が洞窟内に木霊した。
『このくらい出来ぬと、フランスとは戦えぬ。』
ギーコギーコ ギーシギーシ
ファルは揺れる縄梯子を片腕でぶら下がりながら、一つずつ足を掛け降りていった。
下を見た。
『水はここからマンディンカに向かって流れているようだ。南から北へ。傾斜があるのかな?』
ファルは地下を流れる川面にそっと爪先を浸けた。
『あれ?足がつかない、、もっと梯子を下ろしてくれ~!』
ドルン達はファルを乗せた縄梯子を、ゆっくりとその長さの限り落としていった。
ズルズルズル
岩肌に付いていた苔が縄梯子に削られ、地下水の水面にボロボロと落ちていった。
『まだ、足がつかない。もう少し下ろして!』
ズルズル
足が地下の川底についたのは、ファルの身体が腿の辺りまで浸かった時であった。
『二コラが言っていたのとは大違いだ。 細い糸の様な水がヒタヒタと流れていると言っていたが、深い所ではきっと腰の辺りまで浸かるぞ。 あの大雨が一挙にこの洞窟を一変させたみたいだ。』
「どうしますぅ~?水が引くまで待ちますかぁ~?」
マンサが上から声を掛けた。
『、、、いや、ゆく!好都合!』
「はっ?」
『水の流れはマンディンカに向かっている!ゴツゴツした暗闇の岩場を転びながら歩く必要もなくなった!』
「えっ、なに?」
『泳げばいいではないか!!あのフランス兵が言っていた35の日柱を一つずつ目指しながら!!』
「ほ~う!」
『泳げぬ奴も、流れにまかせてプカプカ浮いておれば、マンディンカの宮殿の地下まで着いてしまうぞぉ!!』
「よっしゃー!」
『皆!早く降りて来~い!この天気で、一つ目の日柱がこの先に見えておるぞ~』