殺戮と滅亡 13~雨を待つ
ジョラとマンディンカの民それぞれが肩を叩き合い、再会を喜んでいた時であった。
バブエは空を眺めていた。
さっきから異常な湿気を感じ取っていた。
「サバ様、よろしいでしょうか?」
『どうした?バブエ。』
バブエが天を指差した。
「太陽が雲に覆われてゆきます。黄色い太陽が白い満月の様に変わってゆきますよ。」
『それが?』
「南の空をご覧下さい。夜の様な黒い雨雲がこちらに向かって流れてきています。」
『雨か、、』
「サバ様、このお方は?」
ハラとガーラが声を掛けた。
『ああ、バブエといってな。無類の植物学者。ゆえにそれに伴なう天候にも詳しいのだ。それにな、このフランス軍をやっつけるという計画、そもそもはこのバブエが考えたものだ。それに俺が便乗して神輿渡御されたというわけだ。』
「それはそれは、強い御味方。バブエ殿と呼ばせて頂きます。」
『で、どうしたこの雨雲が?』
「この地方でこんな真っ黒なドス黒い雨雲を見た事がございますか?」
『そういえば、数年に一度くらいか?』
「でしょうね。かなりの雨になると思われます。南半球で5年周期で起きる自然現象。大西洋を北上する発達した雨雲がこの大陸から突き出た西のアフリカを通過するのです。ダカールやバンジュールの辺りは通りません。このカザマンスの地からサハラに抜けるのです。」
『モンスーンではないのか?』
「いえ、違います。風はないのです。ただ叩きつけるような大粒の雨が降り続きます。」
『確かに5年前、、フランスが最初にこの地にやってきた時も凄まじい雨が降っていた。俺達はその雨で不覚状態になったんだ、、』
「その雨がこのカザマンスの大地。カンビヤ川とカザマンス川に潤いを与えているのであります。西の大きな山々を越えるとしばらくは雨雲はそこに停滞します。ハラ殿は知っておられるかと思いますが、この山の奥がこの地域とは全く異なる密林の林である事を。それをもたらしているのがこの雨です。」
『では、如何に?』
「地上戦に縺れ込むなら、その時のフランス軍のようにそれも良かれと思いますが、洞窟は誠危険。しばし様子を窺いながら待った方がよろしいかと。」
『真正面から討って出てはこちらの勝ち目も半減する。やはり待ってでも洞に入りたい。』
「でありましたら、一時待機を。ここでは雨にやられます。一旦船に戻りましょう。」
引き上げる775の民の背中を既に大粒の雨が突き出していた。
それは、カザマンス川にいるファルやマンサ達にも同様に降りつけた。
「どうする?ファル様入るかい?」
『いや、この雨の中、洞窟に入るのは危険だ。止むのを待とう。フランスにやられる前に、この雨にやられちまう。』
この雨は三日三晩と降り続いた。
マンディンカの地を泥と化し湿らせた。