殺戮と滅亡 9~「なんという王!」
「カザマンスの王?!」
二コラ達フランス兵が洞窟に逃げ込もうと振り返ると、そこにはトパーズの光を黒めに受けた褐色の女が弓を引いて待ち構えていた。
「もう、戻れないよ!」
「うっ!」
「武器を捨てな!」
マンサだった。
アゾはその言葉をフランス兵にマンサと同じ口調で伝えた。
「う、う、武器など持ってはおらん。武器と言うなら、ほれ、このスコップと縄だけだ。」
二コラ達はファルの前に手にしていたスコップと縄を放り投げた。
『銃は?』
「そんなものは持ってない。俺達は水門を開けに来ただけだ。」
『水門?なぜだ?』
「それは言えん。」
『ではなぜ閉めた?』
「は?お前ら、なぜ水門が閉まっている事を知っているのだ?」
『水路が流れている事を必要としていたからだ。』
「意味が分からぬが、、お前らはどこの部族の者だ?」
「二コラ殿、こいつらもしやジョラの村で我が軍を焼き討ちにした奴らでは?」
『なにをこそこそ言っておる?』
カザマンスの黒い部隊は、一斉にフランス兵に銃を向けた。
「えっ、あっ、ななな、なぜお前ら銃を持っておるのだ?!」
二コラがグルリと見回すと敵は皆、銃を持っていた。
アゾが切り出した。
「二コラ殿。レノー大佐の部下でしたね? この銃は、レノー殿の置き土産。私達にくれた物です。フランス軍を退散させたいならこれを使えと。」
「レノー殿が?」
「そう。お前達もレノー殿の部下であるなら、俺達の意を汲め。おい!そこの!二コラの後ろの20の兵!あの時助けられたであろう?! レノー殿に帰れと言われて! 俺とレノー殿を置いてマンディンカに戻ったではないか!」
ファルは聞いた。
『どうする?二コラとやら。ここで殺されたいか?オレ達に協力するか?』
「、、、」
『お前達がそのレノー殿を慕っておった兵ならば殺したくはない。かと言ってオレ達に協力すればジルベールに撃たれるかも知れぬ。』
「どう選択すればよいのだ?」
『母国フランスに戻りたいか?』
「それは当たり前だ!こんな所でジルベールなんぞに従って生きていては死んだも同然。」
『わかった。ではこのカザマンスの岸に頑丈な筏を着けてある。その一機、いやこの人数なら二機。くれてやる。食糧も乗せてやる。ここから出て行け。』
「ええっ!助けてくれるのか!」
『ああ、オレ達にとっては敵を減らす事が出来る上、お前らは助かる。互いに好都合。』
「なんという王!」
『オレ達は、フランス軍を殺しに来たわけではない。このカザマンスの地から追い出したいだけだ。
さっさと筏に向かえ!アゾ、案内して差し上げろ。』
「水門だけでも開けてもらえれば毒を流せますよ。それからでも。」
『いや、どちらにしろあの土砂では時間が掛かる。オレ達は先を急ぐ。この兵をすぐ母国に帰してやれ。』
アゾはこっちだとフランス兵に手招きをした。
ついて行った二コラがファルを振り返った。
「ファル王でありますね!母国フランスに無事戻りましたら、あなた様をこのカザマンス、伝説の王として、延々と語り継がれる様にお伝えして参りましょう。」
宮殿の地下までは34の日の柱がある事を聞いたファル達75の兵は、翌日太陽が昇ってしばらくの昼近く、洞窟に潜り込む事にした。