殺戮と滅亡 7~日柱の洞窟
「二コラ殿、これはかなり古い井戸ですねぇ?」
「そう、何百年と経っておるかもしれん。」
「何百年?我が軍の他の部隊が掘ったものではないのですね?」
「きっとマンディンカの民。」
「この上を塞いでいる網は新しい。中々切れぬ。ナイフを使わないと無理だ。ジルベールの命令でな。塞いだ。俺とモルガン、バスチアでな。もう皆亡くなってしまった。だから今は、俺とジルベールしか知らぬのだ。」
「この下が洞窟って、、誰が見つけたんですか?」
「奴隷達数人がこの中に逃げ込んだんだ。」
「逃げた?」
「バスチアはそれに気づきこの井戸を覗いた。奴隷達は縄梯子を使って、スルスルと降りて行ったんだ。」
「追った?」
「もちろん。銃で下方を威嚇しながらな。」
「降りたら洞窟だったってわけか、、」
「そうだ。この井戸はこれからカザマンス川に至るまで、点々とあるんだ。つまりそれが洞窟と同じ道を走っているというわけさ。」
「どこからでも入り込める様に造られたんですかね?それともただ水を汲み上げる為だけ?」
「中に入れば答えが出る。太陽が真上に来る数時間。丁度今からだな。見たいか?」
「もちろんですとも!」
「しかし、そんな話、奴隷が逃げた事。俺達は全く知らなかった。」
「お前達は補給兵として、レノー殿とジョラに向かっていた間の事だ。」
兵は井戸に掛けられた鋼のような網をナイフで切り裂くと、そこに掛けられた縄梯子に足を乗せた。
「大丈夫ですかね?これ、切れませんか?」
「ハハッ!それは俺とバスチア、モルガンで掛けた新しい物だ。決して切れはせぬ。」
20の兵は一人一人、暗闇の地下に降りて行った。
時折、頭にポツポツと水の滴が落ちて来た。
「凄い!!なんだこの広さは!!」
地上の井戸から、真昼の太陽の光が洞窟のそこまでを照らし出した。
足元ばかりを気にしていた兵に、二コラは言った。
「見てみろ。前を。」
「うおー!これはぁあぁぁ!」
兵達が一斉に歓声を上げた。
前方に見えたのは、この先々、いくつもの井戸から降り注ぐ、太陽の日柱であった。その淡く光る円柱の柱は、暗闇の鍾乳洞を黄色とオレンジに照らし、地下に流れる水をまるで夕日の沈む川の如しと変えた。
その日柱は、カザマンス川に至るまでの洞窟の道案内の明かりそのものであった。
「なんて、神々しいのだ、、」
「美しい。」
そう言った切り、兵達はしばらく一言も発せず、洞窟を照らし出す日柱に目をやった。
一人の兵は胸元で十字を切った。
「わかるだろ?、、ジルベールがここを国にしようとしている理由が。ここは自然の要塞だ。この洞窟は敵に攻撃を仕掛ける事も、はたまた逃げる事も可能。しかも両川に繋がっている。」
「なるほど。しかしそれでしたらなぜジルベールは私達兵に教えてくれなかったのです?」
「そこがジルベールだ。自分だけ助かれば良いと思っている。この中に兵が皆逃げ込んだら自分も逃げ遅れるからな。ハハッ!だから知っていたのは取り巻き連中の俺達数人だけだ。」
「あちゃ~!やっぱりジルベールだ!」
「では行くぞ。洞窟を抜けたら、水門はその東にある。」