殺戮と滅亡 5~マルーラの眼下・靡くフランス国旗
ハラとガーラ達75の兵は二つ目の大きな山を下っていた。
「まだ先は長いがここを下ればマンディンカの裏手、カンビヤ川に出ますぞ。」
ガーラはハラにそう伝えた。
「ちょっと、いっちょ登ってみようか?」
「ん?上る?下るのですぞ。」
「いや、そうじゃなくて、大きく高い木の上にだ。」
「どうすると?」
「眼下に何が見えるか、マンディンカの村は見えるかどうかだ?」
「いくら高い木に登ってもまだまだ先、見えません、見えません。」
と、ハラは林の中、一本の一際高い木を見つけるとスルスルと登り始めた。
「この木はマルーラ。灰色の木。20メートルはあるな。」
ガーラが頭上に登ったハラを見上げると、何やらムシャクシャとその実を食べていた。
「おーい!ハラ殿ぉ!あんまり食べなさんなぁ~!!酔っぱらいますぞ~!」
「大丈夫だぁ!これは腐らせんと酒にはならん!ま、カジュとは比較にならん酒だがな~!ハハッ!」
マルーラは大木だ。枝分かれした幹が扇状に広がり、この地方の守護木と呼ばれていた。
「それよりも何か見えますかぁ~!?」
「森しか見えんが、、、あれ?。あれ? なんだ? カンビヤ川が見えるが、、」
「おー!見えますか!川がぁ!」
「お~い!千里眼!ちょっとお前も登って来てくれ~!」
千里眼というあだ名を持つ男。ジョラの部族兵の一人だ。視力のいいこの土地の人間にあって、更に人並み外れた視力を持つ男だった。
「ヘイ、ヘイ。お待ちを。」
千里眼はサササとその木に攀じ登ると、ハラの頭を踏み台にして更に上へと登って行った。
木の天辺に到着すると、左手で幹を抱え込み、右手を両の眉に当てた。
「なにかハタハタと靡いているのが見えるかぁ~?! 川だぁ!右ぃ~!川の方~!」
ハラが千里眼に言った。
「山裾の木が邪魔をしてよく分かりませんがぁ、、、なにやら国旗のようですね~!」
「やっぱり。」
ガーラが下から声を掛けた。
「国旗ぃ~?!色はぁ~?!」
「赤ぁ、白ぅ、青ぉ、、ですね。」
「えっ、それはトリコロールだ!フランス国旗だ!」
「んん?トリコロールとは?」
ハラがガーラに尋ねた。
「聞いて呆れるが、自由・平等・友愛。それを示した色。それがフランス国旗だ。」
「しかし、あそこは川でありますよ。」
「という事は、、、船だ!船に掲げた国旗だ!」
「ここからだと旗しか見えないので、、船なのかどうかまでは、、とにかく林の木々の上に突き出て、ハタハタと。」
「船に掲げておるから、旗だけ見えるんだ!ここからも見えるようなら、きっと帆の上。かなりの大きさの船だ。」
ガーラは自らもマルーラの木に登ると、山の裾を見下ろした。
「、、、よく見えんが、、
ハラ殿。どうなさいます?このまま下りますか?」
「下るしかないであろう。ファル王様の計画通りに事を進めねば。」




