マンディンカ闘争 34~剥奪・同じ穴の狢
「密通者?」
『そう、ジョセフはダカールやゴレで知り得たフランスの情報を、全てオランダ軍に流していた。』
「ほ~お、ではお前はなぜそれを知りながら、黙っておった?」
『兵隊さんには分らんだろうが、商人というのは金を動かしているんだ。知った情報は金になる。物や奴隷を売買しているだけではないからな。俺だってオランダの機密を知るすべがあったし、、、ジルベールが何を狙っていたのかも知っている。それは確かに国家建設の礎を築くかも知れぬ代物だ。』
「お前、自分の言っている事が分かっているのか?」
『当たり前だ!密通者を知る者、つまり俺もジョセフと同じ穴の貉。と言いたいのであろう?』
「バンジャマン。刑が短くなるどころか、一生出れんぞ。」
『大丈夫だ。近いうちにフランスはオランダにやられる。そうすればここも占領され、他の受刑者は知らぬが俺は無罪放免だ。俺がどれだけオランダに貢献したか奴らは知っている。密通者とはそういう者だ。』
「甘いな。逆だ。秘密を知り得ている者。それは殺される運命なのだ。お前は助かったんだよ。このマルセイユの監獄に入れられて。」
『フンっ』
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このジルベールが企てようとした西アフリカでの国家建設は、ルイ・フィリップ国王によりあっけなくあしらわれた。
幾度かの戦争、革命によりアフリカ同様働き手の少なくなったフランスは食糧難に見まわれていた。兎にも角にも南米を植民地化し食糧を手に入れる事が急務であった。そのうえ国王フィリップはアフリカに全くの興味を示していなかった。
「国王陛下。では、軍はどういたしましょう?」
『アフリカに送っている余裕などあると思うか? ベルトラン中佐。』
「全くであります。」
『我は、アフリカにおる兵。皆に南米行きを命じたのだぞ。』
「重々分かっております。ではアフリカには兵を送らぬという事でよろしいでしょうか?」
『いや、西アフリカに軍兵5000を送れ!』
「えっ?申されていることがよく分かりませんが?しかも今我が軍にはそれだけの兵力はございませぬ。」
『ハハッ! という嘘をジルベールに流せ。国王は将軍に5000もの助け船を、兵を出したと。』
「そ、それは、、。奴はきっと諸手を上げて喜び、油断の上に更なる油断をいたしますぞ。」
『我はな、あんな辺ぴなアフリカなどどうでも良いのだ。例え奴が国を創ろうが、我が軍やオランダが出て行けばイチコロ。ほおっておけ。』
「はっ!」
『ただな、我を裏切った事は決して許せぬ。いつか天にまで昇るほどの炎で、火炙りにしてやる。南米での争いが済んだらすぐさましょっ引く。』
「わかりました。国王陛下殿。」
『それとだ、、、これより奴の将軍の地位を剥奪する!』
ジョセフと名乗り続けていた奴隷商人のヤンセンは、マルセイユ港に入国するとフランス軍警察により、イフ島シャトー・ディフの監獄に押し込まれた。
密通の罪で捕らわれたジョセフはまたもやバンジャマンと同じ穴の狢と化した。