マンディンカ闘争 33~密通者
シャトー・ディフ。それはマルセイユの沖合、4つの島の内の一つ。イフ島。
長さ28メートル四方の城壁に囲まれ、3つの城塔が聳え立つ。1500年代に城として建てられた物だが、わずかな時を得て監獄にと移り変わった、難攻不落のダンジョンさながらであった。
政治犯や宗教的な犯罪者は、ここに収監されていた。
貧しい者は窓の無い地下牢。しかし裕福な者は簡易なトイレ、暖炉も備え付けることが出来た。
それはマルセイユの港から寸先。まるでダカールのゴレ島、要塞エストレーの鏡写しの様な造りであった。
彼はここに居た。
顎髭は胸元まで伸びていた。囚人服とは名ばかりのボロ布を身に纏い、時々配給されるタバコをプカリとやるのが唯一の楽しみであった。
サールに騙され、マルセイユの農園で軍警察に捕まったゴレ島の奴隷商人バンジャマンである。
「バンジャマンとはお前か?」
牢獄の檻の隙間から声を掛けたのはマルセイユ駐留軍のベルトラン中佐であった。
『なんだ?なんの用だ。』
バンジャマンは煙草を消すまでもなく、横目でチラリと中佐を見た。
「聞きたい事があってな。」
ベルトランは檻の前で腰を下ろした。横には刑務官が1人立っていた。
「お前、ジョセフという者を知っておるか? 知っておるのう?」
『ジョセフ?どこのどいつだ?』
「ほら、お前とダカールで奴隷商人をしとった。」
『ああ、あの似非フランス人か、、』
「んんん?なんだ似非とは?」
『知りたいか?』
「むろん。」
『では、刑を1年軽くしろ。』
「、、、話に寄りけりだ。」
『どうせ何を言ったって、この中では無駄だ。まっしかしここに居れば誰にも咎められん。』
「何か知っているのだな?」
『なにかやらかしたのか?奴は?』
「お前が話せば、こちらも話す。」
『奴は、、、オランダ人だ。』
「オランダ?」
『そう、本当の名はヤンセン。』
「なるほど、それで奴は簡単にオランダの船に乗れたのか、、」
『国へでも帰ったのですか?』
「お前に話しても、ここなら誰にも漏れん。奴は敵であるオランダ船に乗ってこの地に入る。」
『敵の船で?差し止めればいいではないですか?』
「いや、スペイン、バルセロナから経由して入る。」
『ほう、なぜ分かったんです?』
「スペイン軍からの情報だ。」
『バカな奴だ。そんな事をすればすぐバレるというに。あいつはいつも、どこか抜けておった。』
「でな、そ奴が持っている情報とやらが、かのジルベールがカザマンスに国を創ると言う事らしいのだが。」
『ほ~、それは確かな情報かも知れん。ジルベールならやりかねん。』
「お前もそう思うのか?」
『彼の地には長年おりましたので。』
「で、なぜオランダ人なのに、フランスを名乗っているのだ? ジョセフという男は。」
『刑はどうする?短くするか?』
「、、、わかった。」
『簡単だ。フランス語を流暢に話せるオランダ人、、密通者だ。』
※シャトー・ディフ(イフ島)
南仏マルセイユの沖合に実際にある牢獄の島であります。
現在ではマルセイユの観光名所になっております。
宜しければネット等で調べてみてください。