マンディンカ闘争 32~ジョセフの思惑・オランダの思案
ジョセフの蒸気船はダカール港に入った。
待ち構えていたのはオランダ兵3人であった。
「なんだ?この遺体は?」
「フランス兵であります。」
「この軍服に付いておる勲章、、階級章、、大尉か?」
「バンジュールを指揮していましたロベール大尉でありますよ。」
「名は聞いた事はあるが、、我が軍の船にやられたというのは、小奴達か?」
「そうでありますよ。」
「そこにおる黒いのは?2人?」
「その、、部下達であります。生きておりました。タグボートに逃れて。」
「良く助かったな。海の上の砲弾に。で、どうするつもりだ小奴らを?」
「お話したい事が。」
ジョセフは蒸気船にオランダ兵3人を誘った。
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「なるほど。では、ジョセフ。お前らを何とかフランスに送り込めばいいのだな?」
「そうであります。もうこの先フランスに向かう船はオランダ軍に抑えられております。それどころか、我がフランスの奴隷船と機帆船は全て南米に向かっており、このダカール港には一艘足りとも、、」
「わかった。しかし、今は我が軍はフランスの港には入港出来ん。わかるな?」
「もちろんです。」
「スペイン。バルセロナ港なら大丈夫だ。それでよいか?」
「バルセロナならフランスから最も近い。」
「そこから、マルセイユに向かえ。スペイン軍には船の手配をさせておく。」
「はい、スペインとなら国交がありますので大丈夫かと。」
「なにしろ、急がねばならぬのであろう。」
ダカールに駐留していたオランダ兵が、なぜ自軍を脅かすかも知れないフランス軍追加兵の連絡に協力をしたのか。
ジョセフはこう言ったのだ。
「カザマンス。マンディンカにおるジルベールという将軍。奴はフランス、ルイ・フィリップ王の命に背き、この地を自分の国にしようと企てております。フィリップ王に対する裏切りであります。今、叩いておかないと後々大変な事になります。一刻も早く王に報せねばなりません。」
それを聞いたオランダ兵は考えたのだった。もしこの連絡がフランス国王に伝われば、必ずやこの西アフリカに兵を向かわせてくるであろうと。しかしそれはオランダにとっては好都合。南米での植民地争いのフランス兵を更に削ぎ落す事になり、この奥地、ジルベール軍までもオランダ軍が手を下す事無く壊滅するだろうと思案したのだ。
一方、ジョセフはオランダ軍を叩く為の追加兵とは一切言わなかった。もちろんオランダ兵にそんなことを言えば、この場で連絡はプツンと途切れ、このダカールからは一歩も出してはもらえぬ。へたを言えば殺される。あくまで、ジルベールに成敗を仕掛ける兵をフランス国王に頼みたいと申し出たのだ。
ただこれは、ジョセフの個人的な思惑によるものであった。
このまま、オランダの船でフランスに入国出来れば、もうこの奴隷を逃した責任からも逃れる事が出来、このジルベール軍の陰謀をオランダ船に乗ってまで伝えたとあらば、彼はフランスの英雄にまで行き着く事が出来るかもしれないと。
オランダ軍とジョセフは全く違う思惑で、その向かう方向が一致したのであった。




