マンディンカ闘争 31~漂流のタグボート
「ジルベール閣下。本国に追加兵2000。用立ての連絡なのですが、かなりの時間を費やすと思われます。」
『なぜだ?二コラ。』
「バンジュール、それからパルマラン、ダカールと今まで連絡を繋いでいた軍兵がほぼ居なく、そのダカールさえも今やオランダに占領されつつあります。」
『わしらは孤立したという事か、、』
「、、、」
『願ったり叶ったりだ。』
「はっ?」
『オランダはここには来ん。西はジョラが疫病で壊滅。東はわしを邪魔をする我が軍の兵もいなくなった。足りないのはここの開拓、眼鏡橋水路に使う奴隷のみ。黒人ども、飛んで火に入るように攻めて来んかのう。全員ひっ捕らえてここで鉄球を履かせてやるのにのう。』
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ダカールの沖合、筏のようなタグボートに黒褐色の男が3人。下を向いたまま微動だにしない。
夕闇の迫るその橙の日を背中に受けていた。
「いたぞ!あれだ!バブエとブラル達ではないか? 奴らもオランダにやられたか?」
見つけたのは行方不明のバブエを蒸気船に乗って捜していた、フランス奴隷商人ジョセフであった。彼はサバ、ンバイ、マリマという奴隷、それに加担したであろうバブエ達、毎日毎夜捜し続けていた。
すでにオランダに仕切られていたダカール港であったが、そこは商売の港。フランス人、オランダ人、アフリカ人と今までと様変わりすることなく入り乱れていた。
奴隷を逃がしてしまったジョセフの管理不行き届きの責任も、残っていたフランス軍兵にいつまでも問われていた。
ジョセフはそのタグボートにゆっくりと蒸気船を寄せ、
下を向いてうなだれたままの3人に声をかけた。
「おい!バブエか!?」
1人の男が上を向き、力ない声で言った。
「ああん?おや?お前は、、ゴホっゴホっ、、奴隷商人の、、ジョセフ、、」
「ん?フランス語、、誰だ?セレールの者ではないのか?」
「何を言っておる、、、ロベールだ。バンジュールのロベール大尉だ。」
3人の身体は肌の色では無かった。オランダに打ち込まれた砲弾の火の手。それに巻かれた黒煙のせいであった。
「えっ~! 今助けます!よくぞ逃れられましたぁ!さあさあ、ロープを垂らしますが登れますか?」
3人は、ジョセフの蒸気船の甲板にヘイヘイの体で転がった。
船上には焦げた家畜の様な臭いが漂った。その床は黒い煤で染まり、黒くなった顔からは白い目玉だけが光っていた。
ゴホっゴホっ
喉の奥底まで煤を吸い込み続けていたロベールは、息も絶え絶えに話だした。
「ジョセフ。兵を、ゴホッ。本国から兵を。このままでは我が軍は壊滅する。ゴホっ」
「知っております。バンジュールの船、更にはロドルフ号もモルガン号もオランダに、やられた事。」
「それとな、ジルベールの奴。カザマンスで新たな国を創ろうとしておる、、フィリップ王の命に背き南米には行かぬはず、、、」
ロベールは最後の力を振り絞ったのか、そこで息絶えた。