マンディンカ闘争 28~抜けた葦の原・光る眼
『起きろ。向かうぞ。マンサ。』
日が昇り始めた。誰も来たことの無いこのアコカンテラの赤い泉の葦の原ではあったが、静けさと毒に守られている川は、彼らを深い眠りにいざなった。
「あ~、よく眠れたよ。物音一つしなかったもんな。」
ドルンは大きく伸びをした。筏の扉を開けると、繋いであった紐縄を解いた。
そして、手にした銛でゆっくりと川底を突いた。
筏は葦を掻き分けると、縫うようにグイと押し出され前に進んだ。
ビシャ、ビシャグイ~
静かだったカザマンスの川は7機のその音と共に朝を迎えた。
「この葦の原はどれくらい続くのかしら?」
『毒がどこまで蔓延っているかが問題だ。水の色をよく見て。ムルが言うには葦の原を抜けると急に透き通る水に変わるそうだ。』
「なぜかしら?」
『葦がろ過するんじゃないのかい?赤い水を吸い尽くして、綺麗な水を吐き出す。』
「そんなことってあるかしら?」
『わからん。それしか思いつかない。』
前方の川の両脇。木々が光り出した。
あの辺りからだ。川の照り返しを受けているようだ。
「つまり葦が切れるってこと?」
『さあ、マンサ。ここからだ。おい!ドルン!もうじき葦が切れるぞ!アコカンテラの準備だ!抜ければきっと獣達が現れる!』
「ホイ!ガッテン!」
『ほら、聞こえて来たであろ? 鳥の声。川の流れる音とは違う別の水音。魚が飛び跳ねているのであろう。』
「ほんとだ。ホントにいつもの密林の世界に戻る。ムルは何でも知ってる。」
『ムルはそんじょそこらの霊媒師とは違うからな。』
「なにがどう?違う?」
『オレが王になる事を当てた。ハハッ!』
『抜けたぞ!!抜けた。』
緑深い色を一面に帯びた流れであった。
それは水の色では無い。水底までも見える水は覆い被さる両岸の木々の葉を色濃く映し出していた。
葦の間から一機ずつ、ゆっくりと姿を現した筏はその流れに乗った。
ドルンは銛で水底を突きながら言った。
「なんかさ、この光景どこかで見た。」
『どこでさ?』
「筏ではないけど、、えっとぉ、、あっそうだ!ムクロジ!」
『ムクロジ?』
「ガーラの奴。葦の間からヌッと出て、サッと流れたムクロジを見たって言うから、ニジェにとっ捕まったんだっけ!ハハッ!」
『さあ、用意しろ!流すぞ!木箱を3つ。残りはマンディンカの水路に流すから、7つの内ここは3つ。獣が出て来てからでは遅い!体に触れぬよう気をつけて!慌てるな!』
ドぼッどボッドぼボぼ
ファルは赤い実が流れる様子を見届けながら、天に手を合わせた。
それは全てに宿る神に向かってだった。己たちが生きる為に、獣を殺すという許しを得るためだ。
川の両岸、被さる木の枝葉が下からのシダと重なり合う水面。
6メートルの巨体を持つ、クチナガワニの目が光った。隆起している頭部の骨が右へ左へと動いた。
※アフリカクチナガワニ
最大6mにもなる細く尖った口を持つワニ。
ウロコは大きく重い。
近年新種が発見された事でも名が知れました。