マンディンカ闘争 24~おやすみマンサ
夕暮れのカザマンス川。目の前に葦の原が見えて来た。
筏の(いかだ)の向かう西の彼方、一直線上に日が沈みかけていた。濃橙色の光は赤い川面と混ざり合い、溶け出すように熟し切ったアコカンテラ色に変えた。それは巨大な猛毒の実が泉ごと覆ってしまったようであった。
『葦の原まで向かうぞ。葦の中は遮る物が多すぎて、漕がねば筏は動かない。丁度いい、そこで明日の朝まで休もう。』
「まだ、川も赤い。襲いかかって来る獣すらいないでありましょうから。」
ドルンが言うとファルが頷いた。
ファル達は7機の筏を川の中央に直線に並べ、互いを紐縄で繋いだ。
『アコカンテラの実が落ちて来てはたまらない。岸に近づけぬようにな。』
「物音のしない静かな夜ね。生まれて初めてよ、こんな夜。」
マンサが言った。
『足元に赤い猛毒が流れているというのに、なんたる穏やかさ。』
「私達の声だけが響いているわ。平和そのもの。」
『恐怖と静寂は紙一重ってわけさっ。』
カザマンス王国の兵達は皆、筏の床に寝転がった。
ゴリゴリと当たる丸太の感触も、少しだけ感じ取れる生温い風も妙に心地よかった。
『今夜は見張りもいらん!獣もおらんしな。皆ゆっくり休め!』
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「ファル様!空!見て!」
『ん?、、おー!あれはガラクシア! 天の川だ!』
「このカザマンス川を鏡に映し出している様。同じように北から南に真っすぐ。マンディンカに向かっているようだわ。」
『今にも、滝となって零れ落ちてきそうだ。』
「私達、闘いに行くのよね?」
『そうだよ。』
「この戦いが私達の初めての旅になる?」
『うん。西洋で言うところのハネムーンてわけさっ。』
「こんな景色が見れるなんて、、いい旅ね。」
『だろ?』
「この旅を思い出せるように、、」
『勝たないとな。』
月明かりは赤い水面を照らし、反射した光は葦を真っ赤に染めあげた。
「おやすみ。ファル様。」
『おやすみ。マンサ。』