マンディンカ闘争 23~鮮血の赤い泉
ファルとマンサ、ドルンを乗せた7機の筏はカザマンス川をマンディンカに向け下っていた。その筏は獰猛な獣を寄せつけぬよう四方を柵で囲っていた。頑丈なブビンガの若木の丸太だ。
1機には10人余。囲いの両側には扉がついており、代わる代わるそこから数人が出て、浅瀬では槍を突き、深い場所では木のオールで漕ぎながら前に進んだ。
筏の床は3重の丸太が組まれ彼らを支えていた。軽い筏の方がスピードも浮力もあるのだが、これはムルの教えだった。
「ファル様!マンサ様!水面をごらんください!」
ドルンは筏の扉を開け、2人を呼んだ。
『少しずつだが、赤味を帯びてきたみたいだな。』
「はい。そろそろかと。プカプカと浮いているのがアコカンテラかと。」
それは水獣が獲物を捕らえ、川底に引き込んでいく時のようなジワジワと血が滲む様であった。
「岸の両側、至る所。アコカンテラの実がなっております。」
『来たな。これがムルの言っていた鮮血の泉だ。』
「川の途中が溜水のようになっているというのは、ここの事ね。先まで赤いわ、、」
マンサは気づいた。
「ねえ、ファル様。風の音以外、全くの静寂。何の音もしない。獣の吠える声も、、」
『うん。さっきまでは魚がウヨウヨと飛び跳ねていたが。』
「魚も住めない、毒の泉。」
『それどころか、鳥の鳴き声すらしない。』
「アコカンテラの木だからね。止まり木にもなりはしないってわけね。」
『ああ、暗黒の真昼だ。』
「ムルは、この赤い泉は長い距離ではないと言っていたわね。そんなに簡単に消えるのかしら?この赤、この毒。」
『この先は葦が茂っていて、その辺りまでと言っていたが、、理由はわからない。』
「わからないんだ、、」
『それよりもとにかく。浮いている実を掬うんだ。筏の後ろにある木箱に入れろ!木箱に一杯になったら、使った網は捨てろ!』
バシャ!バシャ!
「どんどん赤が濃くなっていくわね。」
『ムルが筏の床を3重にしろと言った理由がよ~くわかったよ。普通の筏ではこの赤い毒が丸太に滲みて足元から襲ってくる。』
『おーい!!皆んな~!泉の真ん中を通れ~!岸に近づくな~!アコカンテラの実が落ちて来たら、一溜りもないぞ~!気をつけろ~!』
7機の筏は岸に流されぬよう慎重に慎重を期した。岸に近づく事は死を意味する事と同じだからだ。
『ここを過ぎると、今度は猛獣の巣屈だ。』
「なぜ、急に?」
『つまり、生き物にとってはこのアコカンテラの泉が行き止まり。これ以上はこの川を上っては来れぬ。毒が切れた所から動物の吹き溜まりが出来ているというわけだ。』
「どんな獣がいるのかしら、、?」
『来た事ないもん。知らないよ!ハハッ!』
ドルンが口を割った。
「マンサ様。筏に乗っている限りは大丈夫。ただワニだけであります。」
「何を言っておる!そのワニが一番狂暴なんだろうて~!」