マンディンカ闘争 17~カザマンス王国・出発の時
「マンディンカの宮殿にはアクラ殿の部屋が設けられていて、、」
「ん?アクラ?」
「ハラ殿は知らぬでありましょうが、マンディンカと各部族の村々を行き来しておった遣使。」
ガーラはここまで言うとその大きな黒い瞳から大粒の涙を流した。
「どうした?ガーラ殿?」
「いや、まっ、私がここの檻に入れられた一因。私が殺ってしまったので、、」
「、、、」
「そこには多くの書物が収められていて。もちろんフランス語やポルトガル、オランダ語の物。交易の資料がほとんどではありますが、マンディンカ人や他の部族が書いた物もあります。字を持たない我らの書は全て絵でありましたが。そこでアクラ殿はヨーロッパの言の葉を熱心に勉強し、マンディンカの国造りの為、毎日のように研究をしておりました。」
「ガーラ殿がそのお方を?」
「私はニジェ様のフラミンガという構想には反対の立場でありましたし、すでにマンディンカは滅亡の一途でしたので、、」
「で?」
「大事な書物は、そのアクラ殿の部屋の床下に。その床下の更なる床を開くと真下は地下洞窟。そこに縄梯子が掛かっておりまして、登り下りがスルリと。」
「ではその縄梯子が今もってあれば、いきなり宮殿内部から奇襲が掛けられると?」
「そうであります。」
ファルが割って入った。
『ハラ。つまりな。オレとマンサが、カザマンス川からの水路にアコカンテラの毒を流す。そしてその先の洞窟入り口から侵入する。お前らは反対側のカンビヤ川の洞窟入り口から侵入し、宮殿真下で待機しておれば良い。オレ達がそこに行きつく前に水路は毒の水になっておる。その間に何人ものフランス兵は倒れているはず。何事が起きたかと宮殿におる兵も飛び出し、宮殿内も警備は薄くなる。』
「で、ジルベールを抑え宮殿ごと乗っ取る?」
『そういう事だ。わかったら支度をせい。ゆくぞ。』
「ガッテン!!」
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またしても宮殿の屋根からトゥーカンが飛び立った。
ギャアと鳴いたその鳴き声は出発の時を報せる合図の様であった。
ファルの宮殿の庭に、150の兵が並んだ。右手には槍を構え、背中には弓矢と弓筒。
立ち昇った朝の光は、密林の木々を抜け、その褐色の肌の色を浮き出した。
しかし躍起立つ彼らの血の色は、その神々しい日の光を跳ね返しているようであった。
その兵を見ようと集まった民の群衆から、一人の少女が兵の前に現れた。
「ガーラのおじちゃん!必ずやっつけてきてね!」
ナシャであった。
ガーラはナシャの肩を抱き、自らがつけてしまったその背中の傷を摩った。
「分かりました。必ずや。」
「うん!待ってる!」
「また、お目にかかりましょうぞ!」
「私が一番に迎えにゆく!」
ガーラはまたその瞳から涙を流した。
『では!参るぞ!!』
ファルが兵に号令を掛けた。
見送ったニジェの左手には虹色石が硬く握り締められていた。
※昨日投稿致しました「マンディンカ闘争16」
位置関係等分かり辛い点がおありになったかと思い、簡単ではありますが、後書きに地図を掲載致しました。子供が描いた様な絵ではございますが、宜しかったらご覧下さいませ。