静かなる内戦21~ハラ
『ファル、わしはもう歩けんよ。』
ムルはすでに立っていることさえままならなかった。
雨はまだ降り続いていた。
『爺、無理をせんでいい。』
『ディオマンシも年寄りはほっておけ!と言っていたしの。もう放って置いてくれてよいよ。』
『あと20歩。歩けるか?あそこの小さい中州まで。何なら背負う。』
『ん、下手に背負ってカマラに振り向かれたら、お前がやられるぞ。20歩なら。』
ファルはムルに手を添えて、中州までゆっくりと歩いた。
『爺、そこに座っておれ。』
『座ってどうするのじゃ?』
『おれらの帰りを待てばよい。』
『帰りにカマラに見つかったら?』
『2日の辛抱だ。』
『2日?早すぎはしないか?』
『、、帰りは、、、カマラはおらんはずです。』
『おらんだと‼』
そこは水面より少し高い小さな島のような中州だった。
『座れるか?』
ファルは両手でムルの脇を支えて、ゆっくりと下した。
『どうした?ファル!』
後尾に駆け寄って来たのは、背負籠を背負った、ファルより8つ年上のハラだ。
『ムルの爺がもう歩けんと。』
『そうか、爺大丈夫であるか?』
『座っているぶんにはいいんだが、この雨がな。』
ハラは背負籠を下すと、木の実を全部爺の足元にぶちまけた。
そして空らになった背負籠をヒョイと爺にかぶせた。
『爺、これをかぶっておれ。雨しのぎじゃ。こぼした木の実は、お腹が空いたら食べてくれ。』
『おう、ありがたい。』
『動くでないぞ。必ずや迎えに来るから。』
『カマラはパプやドンゴと違って隙のない男じゃ。くれぐれも気をつけるんじゃぞ。』
『はい!わかっております‼』
二人は一緒に返事をした。
『おおーい‼お前ら何をやっておる‼ 早く来い!戻れ~‼』
カマラが前方からこちらを振り向き叫んだ。
『ほら、カマラはちゃんと見ておる。』
『ホントに隙がねえや。』
『じゃあ、爺。俺たちは行くから。待っててくれ。また。』
二人は最後尾に追いつくように少し足早で列に向かった。
『ファル、うまくいくかな?』
ハラが言った。




