マンディンカ闘争 14~青き酒とロゼワイン
「ここにおっても奴隷がおらんでは仕方がない。」
「どう致しましょう? ステファン軍曹。」
「戻るしかあるまい。」
「もう一度バンジュールへ?」
「そうだな、、探りを入れながらな。」
「では、離港の準備を致します。」
「チッ。不味い葉巻だ。」
ステファンはその大ぶりの葉巻を足元に叩きつけると、軍靴の先でギュギュと押し潰した。
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「子供の頃からな。手伝わされていたんだ。葡萄作りからワインになるまでの工程を。習ったというか、あれだな、それが生活。農園主の子せがれなら当たり前。」
アランは饒舌にしゃべり出した。
「マルセイユはワイン発祥の地だったがな、いつの間にか北へ北へと。で、とうとう家一軒。地中海に近いからな。夏は暑くて乾燥している。葡萄がカビに侵される事はない。」
「ほ~!」
サバやバブエは聞き入った。それを所々ンバイとマリマに通訳しながら伝えた。
「でな。ミストラルという冷たい風が、北にあるローヌ川から流れ込んで、北西にあるベール湖から東に抜けると暑さは和らぐんだ。」
「地理がわからんが、なんだか凄いな。で、出来るワインってのは?」
バブエが聞いた。
「ナポレオン・オブ・ロゼだ。」
「ん?ナポレオン?」
「ハハッ!ロゼの中の将軍ってわけだ。」
「将軍、、ジルベール・オブ・ロゼ、、」
「笑わせるな!ジルベールとは格が違うわ!」
「いや、そういう事だろ? ジルベールが企んでいることは?」
「マルセイユのロゼは、透き通る淡いピンク。辛口のピリリとくる芳香のワインだ。」
「なにか、そっくりだ。」
聞いたンバイは驚いた。
「似てるのか?そのぅ、、カジュとかいう酒は?」
「ジョラの村も乾燥地帯。そして、その村を取り囲む様にカザマンス川とカンビヤ川が流れ、大西洋の大海に注がれる。北にある三日月湖や密林の山々から吹く風はその川の流れに乗って冷やされる。」
「マルセイユだ、、」
「しかし、その酒の色は淡いエメラルド。中には竜巻の如き白雲が立ち上がる。」
「なんだ?青く、そして雲?」
「呑めばピリリと芳醇な酸味。」
「青きワインってわけか、、、そりゃあ、ジルベールが欲しがるわけだ。ジルベールの気持ちがよ~くわかる!ハハッ!俺も見てみたい。この舌で味わいたいわ!」
アランは大声で笑った。
「しかし、アラン殿。その実の成る木は、ジョラから東にしかない。しかもエリアは狭い。その先フラミンガ伝説のある密林に入ると、一本たりとも生えとらん。造り方もひと手間加わる。」
「そうか、そうか。謎多き酒だな。」
「いや謎ではないよ。私達にとってはアラン殿のロゼと同じ。生活の一部であった。」
ンバイとアランはサバを介しながらであったが、旧友の様に肩を叩き合って会話した。
「もし、ジルベールを殺っちまったら、ンバイ殿、マリマ殿。是非その酒造り。手伝わせて頂きたい!」
「ブラル。アラン殿の足枷を外してやってくれ。もうその鉄球に用はない。」
バブエは隣でニコと笑った。