マンディンカ闘争 12~アラン・ジュニア
バズは林の中からスルリと浜に出戻った。
(誰か乗っている。白人ではない。)
「お前ら!まだ出て来るな!」
バズは兵を制止すると、一人波打ち際に向かい、その船に向かって小さく手を振った。
その甲板の先、大きく手を振り返す5人ほどの男が見えた。
「仲間だ!セレールとフラニだ!」
「皆!出て来い!」
林からは300もの褐色の部族が飛び出て来た。
パッパッパッ
『乗れ~!皆この船に乗るんだ~!』
船からは部族の言の葉、大きな声が浜まで届いた。
バブエ達がパルマランの船を乗っ取った後、残された2艘の蒸気船は嵐の波で流されたのではなかった。
その蒸気船に5人ずつ乗船し、彼ら陸路部隊を迎えにダカールまでの沿岸を航行していたのだ。
透き通るエメラルドの海は、海底まで映し出し、乗船していた彼らの目に海の深さを伝えていた。
『座礁せぬようギリギリまで寄せるぞ~!』
船からのその大きな声は北西の風に乗って、バズの耳に届いた。
「おい!お前ら!泳げないものはおるか?」
「ありゃ、!わたしは泳いだことが、、全く。」
「私もです。」
「わたしも、、」
「そんなにおるのか、、わかった。その林の木。切り出せ!急場しのぎで良い。筏を造れ!」
元々奴隷狩り部隊の彼らは縄も刃物も持っていた。それは奴隷を縛り繋ぐ物、それは奴隷を殺す物。それらは筏造りに生かされた。
「チャチャと造り上げ~い!」
「よっしゃー!」
「早くしろ~!いつパルマランの兵が現れるかわからんからな~!」
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この蒸気船には300余のセレール、フラニの兵が乗船した。2艘はグルリと舳先を変えると、バブエ達の船を追った。
バブエやブラルを乗せた機帆船に200の兵と200の元奴隷達。後を追うこの蒸気船には300の兵。
マンディンカに向かうサバとバブエが率いる兵は700人と膨れ上がった。
一方マンディンカに駐留している600となっていたジルベールのフランス軍部隊は、アランの命により再びダカールに戻された200の兵も削られ、400となっていた。
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『ンバイ殿、マリマ殿。ジョラの事を色々教えてもらえぬか?』
サバはその船室のテーブルに、バブエとブラル、それにアラン少尉を呼んだ。
『カジュという酒。それほどの物か?ここにおる者、誰も知らないのだ。わたしも一度ペロと舐めたきり。』
サバが言った。
「ん?俺は初耳。何だ、そのカジュの酒とは?」
アラン少尉が口を挟んだ。
『ジルベールから聞いてないか?』
「一度も。」
『ジルベールの奴。こればっかりは他の部隊にも口を割らなかったか。これが奴が国を造ろうとした収入源になりうるもの。』
「酒?ワインか?どうやって作る?」
『それをこのンバイとマリマが知っているんだ。しかし、アラン殿が造り方を聞いてどうにかなるものではないであろう?』
「いや、俺はワイン農園の息子。マルセイユで一軒。大農園のな!ハハッ!」
「えっ!マルセイユの農園!」
マリマが驚いた。
「あっ!あの時の農園主の爺。確か!アラン!」
ンバイが目を丸くした。
「そう、俺の名はアラン。アラン・ジュ二オール。」
「あの!アランの息子!」
「ワイン造りはお手のもんだ。」
※2艘の蒸気船については[奴隷の行方52]フランス国旗を掲げた船
※アランの名前については[奴隷の行方27」マルセイユの葡萄農園
を参照して頂ければ幸いです。
「カザマンス」も長期に渡る小説になりましたので、振り返り易くできます様、時々このように参照欄を明記していく所存です。