静かなる内戦20~ファルとニジェ
ファルには心当たりがあった。
ニジェと知り合った頃のこと。
『誰だ!お前!ここはオレのねぐらだ!』
ニジェがパプとドンゴに呼ばれてフラミンガを探しに行った時、横になっていたアジトは元々オレのねぐらだった。
『もう少し寝かしてもらえぬか。』
『ぬか?なんだそりゃ、いいから起きろ!出てけよ!』
ニジェはゆっくりと手をついて上半身だけ身を起こした。
【でけえ】
『お前ジョラか?見かけんけど。』
ニジェは右手で目をこすりながら、
『マンディンカだ。』と即座に答えた。
今思えば、堂々たる答えだ。ジョラの村に密入している身。
嘘をつくこともできる。マンディンカなどと言えば、ジョラの民にでも殺されかねない。
『歳は?』
『13』
『オレと同じじゃないか!親は?』
『フランスに殺られた。』
『逃げて来た?一人で?』
『そう。』
『どこに住んどる?』
『今はここ。』
『だから、ここはオレの住処だって言ってるだろ!』
『、、、』
『オレも一人だ。わかった。くれてやる。こんなねぐら、いつでも作れる。』
それから度々様子を伺う内に遊びもし、話もするようになった。
しかし、ニジェは何一つ知らなかった。
虫もさわれず、泥も嫌った。木登りでさえも『俺はしたことがないから』と。
それを一つ一つファルは教えて行った。
当時はそんな子もいるだろうとしか思っていなかったが、
果たしてそんな子が、一人でこの距離を逃げ延びて来れるだろうか、、
そのうちに、教える楽しさと、教わる楽しさとで二人は増々仲良くなっていった。
『おい、そのデカイの。お前はどこのガキじゃ?』
カマラとドンゴに見つかった時の事だ。
その時も
『マンディンカだ』と答えた。
ドンゴはすぐにニジェの目の前で弓を引いて威嚇したが、別段身をすくめることもなかった。
『まあ待て、ドンゴ。』
カマラは矢の行く手をふさいだ。
『お前いい身体をしておるのう。どうだわしらの荷物持ちをやらんか?』
『あッはい!』
ニジェはニコとしてすぐに返事をした。
『部屋はやれんからそこに住んどれ。用があったら呼びに来る。わかったか!
わかったら、あまりウロウロするでないぞ。』
それからは、時々は宮殿の荷役で呼ばれはしたが、ファルと遊ぶ時間はたくさんあった。なにしろ、二人とも一人。夜も昼も自由だった。
 




