静かなる内戦2~密林の王
高床式のそれは密林には似つかわしいが、ジョラ族のものとしては明らかに違う。カザマンス独特の土造りの風習は捨て去り、この密林の地に逃げ延びて来たのだ。
元々は防水二階建ての家を造るほどの高い技術を持ってはいたが、密林の湿地と獰猛な獣の侵入を防ぐには、こうするより他なかった。
とはいえカザマンス川の北の流域は、マングローブやアブラヤシが群生し豊かな植生に恵まれ、今では米や綿花、トウモロコシの耕作も行う様になっていた。
一緒に逃げ延びて来た家畜のヤギや鶏も、時々は獣に襲われるがそれぞれの人家を取り囲む様にそこかしこにいる。
ジョラの民は古来から、カジュの木から白く濁った酒を造る技術も持ち合わせていて、この部族の王ディオマンシはこの酒を朝に晩にと好んで呑んでいた。
フランス軍がジョラ族の隣西の部族マンディンカを制圧したのち、東へ侵攻したのもこの酒が狙いであった。しかしフランス軍は、ジョラに向かう密林の深い山を前に脚を止めてしまった。
諦めたのかは知る由もなかったが、この地に辿り着くにはしばらくの年月を要するとディオマンシは思っていた。
王ディオマンシは、数年前まではカサ王国の一つの部族の王であった。
アミニズムを崇拝しているとはいえ、マリ帝国からの移民やグリオの殺害、物乞いをするタリべの弾圧を繰り返してきたのだ。
しかし、逃げ延びて来たこの地にあってもその横行ぶりは変わらなかった。
宮殿と呼ぶにはふさわしくない隙間だらけの床、屋根はカジュやバオバブの葉で葺いたお粗末なものだが、民と比べれば一際大きく頑丈なものだ。
そこには、カマラ、パプ、ドンゴという屈強な男3人が王を取り巻く様に暮らしていた。
王妃はというと、ジョラは一夫多妻。6人の妻がいるが、秘密が漏れる事に用心深い王は、この信頼の置ける3人の男と我が身を守らせる様に暮らしている。
頭にはトゥーカンという鳥の羽で造った冠。黒褐色の上半身は裸ではあるが、肩口と二の腕はヒヒの様にせり上がっていた。
胸元には水牛の角と象牙であしらった数輪に及ぶ首飾り、腹はポッコリと出てはいるが、腰にはライオンのタテガミを幾重にも重ねた腰蓑をつけていた。