マンディンカ闘争 4~バブエの推測
アランのイビキが船室内に響いた。
自軍の兵を騙した汗は、捕らわれた恐怖を上回っていたのであろう。いとも容易く深い眠りについた。
「バブエ殿。一つ疑問があるのだが」
サバは磨かれたテーブルの真ん中にランプを置き直した。
「なぜ、我々はダカールに売りに出されたのだ? 水道橋?国造り?マンディンカに留めて置けば良かったのではないか? わざわざ奴隷連行軍を往復させんでも、、」
『それは、、たぶんでありますが、このカザマンスの地で国を造る事はジルベールの夢。カジュの酒で一国を保てる程の利益をあげようとしていた。しかしその肝心のジョラは疫病に倒れ滅亡。夢は散ったと思った。もうこの奴隷を使うのも、面倒を見て行くのも兵には大きな負荷。そこで売った。』
「どういう事だ?」
『そこに現れたのが、ダカールに運ばれていたンバイとマリマ。まさか奴隷の中にカジュ酒を造れる者がおったとわ!ですね。』
「散り際の夢に待ったが掛かった?」
『そう、酒を造れる者がおれば、後はカジュの木を手に入れればよい。もう滅亡したジョラの村。疫病だろうがなんであろうが、密林深く分け入りカジュを引っこ抜いてくれば良いだけ。』
「しかし、先ほどの話。フランス軍は、どこぞの部族に焼き討ちされているではないか? どこかにまだ生き延びている者が。」
『ジルベールですぞ。頭の中は奴らをただの少数部族、取るに足りんと思っている事でありましょう。それに、居たとしても闘う必要がない。奴の目的はカジュですから。それだけを手に入れれば、そんな部族など放って置けばよい。 まっ殺られた怨み。徹底的に調べてはおりましょうが。』
「夢が再燃。すぐさま奴隷を引き戻せと。しかもカザマンス以外の奴隷達も皆。」
『そこに偶然起こった南米でのオランダ軍との戦争勃発。奴隷を輸送するなぞ大仕事の手間は省きたい。その手間をジルベールが一手に引き受け面倒をみる形になった。フランス軍南米部隊には願ったり叶ったり。ジルベール様々というわけです。』
「なるほど。バブエ殿は頭が良い。」
『推測です。推測。』
サバはテーブルの上の、鯨油のランプを手に取ると、アランの寝ている顔を映し出した。
「この男はパルマランの駐留だ。なのにジルベールの野望、具体的に知っていたが、、」
『さっきの言い方、ジルベールの事をボロクソに言っておったんでしょ?』
「そう、この面。」
『何か協力要請でもされていたんでは? 水道橋の建設とか。』
「こいつ使えるかもしれんな。」
『ジルベールがお嫌いなご様子でしたし。』
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『では、サバ様。カザマンスはあなた様の地。ここからは、あなた様が指揮をお取りになられますか?』
サバはランプをもう一度テーブルの上に置くと、油を継ぎ足した。
「お前が助けてくれるならな。」