マンディンカ闘争 3~疫病の嘘・ジルベールという男
『サバ様。それと、もう一つ。ジョラでありますが、もう部族としては存在しておるかわかりません。』
「どういう事だ?」
『疫病で壊滅した可能性がございます。』
「疫病?なぜわかる?なぜ知っておる?」
『一人のフランス兵が口を割りました。』
「そんな事を口に出す者などフランス兵におるのか?」
『割ったというか、割らせました。そこの甲板に座っているカロとダラ。あいつらはダカールの露店街でヤッサを売っておりましたが、客の一人、もちろんフランス兵。路地裏で羽交い絞めにして聞き出したのです。少々手荒であったようですが。』
「なるほど。」
『しかしであります。不可思議な事にジュラの疫病を知り、すぐさま引き返したフランス兵が返り討ちにあったのです。しかもフランス軍同様の火薬を使って。つまり焼き討ち。皆殺し。バスチアという軍きっての隊長もそこで。』
「火薬?どこの部族だ?」
『場所はジョラの村。部族は、、それが、わからない。フランス軍にも。』
「しかし、ジョラしか考えられぬではないか? あの辺りには他に部族はいない。マンディンカの残党が逃げ込んでいたとしても、そこまでの戦力は考えられない。」
『という事は、ジョラは生きておる?』
「そう、、疫病とは名ばかりの嘘、、」
『そういう事になりますか。』
「お前。何か知っているか?」
サバは両手を縛られ床に転がっていたフランス軍少尉アランに話かけた。
バブエが部屋のテーブルにあった鯨油のランプに火を入れた。
「フン!俺は何も知らん。ジルベールは都合の悪い話は他の部隊にはせんからな。それよりもこいつら奴隷をどうするんだ? ジルベールが今か今かと待ちわびておるぞ。」
「何かいい手はないか?」
「俺に聞くな!聞いてどうする? こいつらは水路の開拓に出向くはずだったのであろ? こんな事が見つかったらこの船ごとジルベールの餌食だ!」
「わかっておるよ。承知。水路の開拓、俺もダカールに連れて行かれるまで数年こき使われた。」
「お前、わかってないな。水路を広げる為だけに、わざわざわざわざ奴隷をダカールから連れ戻すと思うのかい?」
「人手が足りんから。」
「あのジルベールという将軍。舐めぬ方が良いぞ。」
「では、何を?」
「お前達は知らぬだろう。我がフランス共和国にある宮殿。ルイ14世の宮殿だ。そこには噴水庭園なるものがある。水無き地に水を引く。巨大な揚水装置でセーヌの川から水を汲みだし、10キロ先の庭園に噴水として湧き出るのだ。」
「どうやって?!」
「ジルベールは何を思いついたのか、、、水道橋を造るんだとよ。カンビヤからなのか、カザマンス川からなのかは知らぬが、、それに駆り出させられるんだよ、小奴らは。しかしこんな人数では足りん、足りん。フランス共和国のその宮殿の建設、水道橋の建設には、、6万人を要したのだ。、、、それがベルサイユ宮殿。」
「えっ!それではこのカザマンスをジルベールの国にしてしまうという事ではないか!?」
「ジョラの酒を見いだせれば、容易いと言っておったようだ。」
(あの時、サールに聞かれた、、カジュの事だ。)
「都合の悪い事には口を閉じ、己を大きく見せたい時には口を開く。そんな男だジルベールは。」
アランは床に仰向けになって、ランプの下、目を瞑った。
「寝かせてくれ。」




