奴隷の行方 54~待ち構えていたバブエの機帆船
バンジュール港の沖合。それはカンビヤ川の河口にある岬の西。
河口の川幅は最大10キロあるが大西洋の大海に流れ込む前には、北側の陸地からも岬が突き出ており、少しだけ川幅が狭くなっていた。
バブエ達を乗せたフランス船籍2艘の機帆船は、奴隷を乗せたダカールからの船をここで待ち構えていた。
波はいつの間にか穏やかになっていた。
「来ますかねぇ? ロドルフ達。このモンスーンに持ちこたえられたか、、」
『わからんが、しばらく待つしかない。数日はかかるかも知れないが、さっきまでの波の流れ。転覆でもしていない限り俺達が思っている以上に早く来るかもしれん。』
ーーーーーーーーーーーーーーーー
バブエ達の船は待った。策を練る時間も頂いた。
翌夕の事であった。
西に沈む夕日を背に、黒い2つの塊り。
大西洋沖に浮かんでいる大きな船がブラルの目に飛び込んだ。
「バブエ殿!あれ!あの2艘の船ではないでしょうか?」
バブエはブラルに促され、甲板に出た。
『らしいな。あの船だ。大きい。』
「この海を帆無しで?」
『畳んだのであろう。昨日のこの嵐だ。』
その二つの巨大な影は見る間にバブエ達の方に向かって迫ってきた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「なんだ?あの船は?」
「フランス国旗が靡いておる。」
「2艘」
「あの大きさからして、この付近。パルマラン部隊の船ではないか?」
「わざわざ嵐の中を?」
「出航した後、嵐にあって停泊しておるのか?」
「いや、停まってはおらぬ。こちらに向かっておるぞ。」
「方向はバンジュールでもパルマランでもないな。我らの船に向かっておる。」
「何かあったのか?」
「助けを求めている?」
「しかし、船はシカリと動いておるぞ。」
「おッ!来る来る!」
ーーーーーーーーーーーーーーー
『ブラル!着けろ!あの船の横っつらにピタリと!もう1艘も!挟め!』
パルマランの船は大きく旋回すると奴隷を乗せたその2艘の船と舳先を同じくした。
「なんだぁ~!どうしたぁ!?」
「パルマランの兵かぁ~?」
先に声を掛けて来たのは、奴隷を乗せた大型船のフランス兵達であった。
船室の2階からであった。
甲板には多くの奴隷達が蠢いていた。手摺りを掴んだその褐色の民は、パルマランの船を一点に見つめ、ザワザワと騒いでいた。
ーーーーーー
『良いか。我らは船室から出るな。隠れていろ。全てアランに任せる。』
バブエはセレールとフラニの部隊に声をかけた。
ブラルは外から見えぬようアランの腰に槍を突き付けた。
ーーーーーー
大型船からの声に返事を返したのはそのアラン少尉であった。
彼もまた船室内から顔だけを出した。
それはブラルの槍と、アランの足の鉄球を隠す為でもあった。
「ロドルフ殿はおられるか~! 嵐は大丈夫であられましたかぁ~?!」
アランは有りっ丈の声で、奴隷の乗った機帆船のフランス兵に声をかけた。
「あッ!アラン殿!アラン少尉殿!!」
「そうだぁ~!パルマランのアランだぁ~!」
「あのぅ、、ロドルフ殿はぁ、、」
(どうする?言うか?)
(どうしよう?)




