奴隷の行方51~フランス船乗っ獲り
バブエとブラル達を乗せた蒸気船はパルマランの入り江に隠れる様に浮いていた。
『やはりおるな。フランス軍。』
「俺達の船とは全然違う。立派な船だ。」
『この先を思うと、あの船が欲しい。』
入り江の先には真新しい中型の機帆船が2艘つけていた。その帆の上にはフランス国旗が嵐を待ち構えるようにハタハタと、たなびいていた。
「甲板には誰もおらんようですね。」
『まだ、日が差しているが、表にはおらん。、、いても数人か?』
「気づかれませんか?」
『黒雲が。ほら。もうそこまで迫っている。』
「ふふっ。雲と一緒に近づきますか?」
『チャンスは一時だ。この嵐では陸の部隊は攻められぬ。今しかない。』
『蒸気を一旦切れ。雲と一緒にあの船に向かうぞ。あの中型の船を我らの2艘で挟め。』
「よっしゃ!」
バブエ達2艘の船は静かにゆっくりと、船の真横に挟み着けた。
ゴゥゥゥウ~!!
ザザザザザザ~!
いきなりの剛風がバブエの頬を叩き出した。
ブラルの肩はたちまちの内にびしょ濡れとなった。
『いくぞ!』
モンスーンに揺れ出した双方の船であったが、ここは内海。ロドルフ一行を乗せた機帆船と比べたら左程の揺れではなかった。
挟み込んだ2艘の船からは、フランス船に梯子がバタと掛けられた。
『登れ!!』
そのヅカヅカという音は、波と雨風の音に掻き消された。
総勢200のセレールとフラニの部隊は甲板に競り上がった。
『乗っ獲る。』
横揺れが激しくなった事に気づいた機帆船室から、10人の短パン姿のフランス兵が飛び出して来た。
突然の嵐に扉を開けた彼らだったが、目の前の光景に驚いた。
取り巻かれたのは、ずぶ濡れになった褐色の屈強な男達だったからだ。
『戻れ!船室に戻れ!』
ブラル達はフランス兵の喉元に槍を突きつけながら、一歩ずつ室内に押し込んだ。
「揺れるからな!一歩間違えれば突き刺しちまうぞ!」
言葉は通じずものの、フランス兵には何を言わんとしているかが手に取る様にわかった。
フランス兵もまたびしょ濡れ。両手を上げ、後退りしながら船室に戻った。
『ブラル。ロープだ。こいつら皆縛れ。』
「ほいほい!」
『ンバイ達から切り離した鎖と鉄球。えっ~と、この中で一番偉い奴は誰だ?』
「、、、、」
『あれ?俺のフランス語通じぬか、、地方出身のフランス人だな。サバ殿を連れて来てくれ!片言ならわかるかもしれんと言っておった。ンバイとマリマも一緒にこの船に上げてくれ!乗っ獲ったも同然だ!この船に乗り換えるでな!長い航行には最適だ!』
「バブエ殿。植物学者とは思えぬ物言い。まるで荒くれ軍兵。ハハッ!」
『バカ!船を乗っ獲るのに学者然としておれるか!』
「ハハハッ!」
奴隷だった3人、ンバイとマリマ。それにサバは突風と豪雨の中、セレールとフラニの部隊に引っ張られながら梯子を登った。
『サバ殿。聞いてくれ。この中で一番偉い奴は誰かと。』
「承知しました。」
サバが尋ねるとフランス兵は黙り込んだが、送った目は1人の兵であった。
『お前だな。短パンではわからぬではないか?!』
「フン!」
『ブラル。こいつの足に鎖と鉄球をはめろ。して、サバ殿、こいつの名前を聞いてくれ。』
「名前は?」
「アラン。少尉だ。」
船が大きく揺れた。
ロープで一つに縛られた残りのフランス兵9人は、船の揺れと共に、船室の壁に団子になってぶつかった。
ドン!ドン!ダン!
『とんだバカンスになったな。アラン少尉殿。これから協力して頂く。軍服に着替えろ!』




