奴隷の行方 50~風と足枷の鉄球
「どけ!役立たず!」
カロとダラは足の鉄球を引き擦りながら帆の真下まで行くと、上部から垂れ下がった網の梯子に手を掛けた。
この網の梯子とは、帆を張り、畳む時に使う帆柱のてっぺんから三角上に張られた物だ。
フランス兵達はここを登る最中に突風に煽られ、海に投げ出されていたのだ。
横帆に張られた大麻で編んだ帆。この船の推進用の動力は蒸気の熱と、帆に当たる風力とを併用するものであった。大海に出ると、燃料を食う蒸気は使用せず帆だけで進むいわゆる機帆船であった。
「登るぞ!ダラ!」
2人は帆柱ごと左右に揺られながら、上へ上へとよじ登った。
ザブ~ン!
ドだだだダ~!
高波の潮が、彼らを何度も荒波の大海に叩き落そうとした。
鉄球と繋いだ足枷がグイと足首に食い込んだが、これが彼らの支えとなり、その褐色の体の揺らぎを抑えてくれていた。
奴隷の若い男衆は一斉にそれに続いた。
帆柱に当たる鉄球のしびれが皆の指先に振動した。
網を握る手の平は瞬く間に筋状の血に染まった。
「畳まんでいいぞ~! 縄だけ柱から外せ~! 靡かせとけばいい~!」
一人の奴隷が、堪え切れず網から手を放した。
強風に煽られた上半身はフワと浮いて、頭を下にしたが、足枷の鎖が網に絡まり宙吊りにぶら下がった。
彼は逆さになったまま、すぐさま網に掴まった。
フランス兵達は帆柱にしがみついてただただそれを眺めていた。
他の奴隷達は、甲板の手摺りに鉄球ごと鎖をクルリと巻き付けその手摺りにしがみついた。
転覆でもしない限り彼らが海に落ちることはなかった。
帆は奴隷達の手に寄って全て外された。
数時間の内に嵐は収まり、甲板を焦がす太陽が残風と共に再び顔を出した。
その甲板には帆を外した奴隷達が大の字になって、皆で呼吸を整え横たわっていた。
「面白かったな。ハハッ!」
「フランス兵は弱虫だ。やつらこそ虫けらだな。ハハッ!」
フランス兵達はそれきり甲板に顔を出さなかった。船室に籠った切りであった。
「恥ずかしくて当分出て来はしまい。」
「また、帆を張り出す気配もないしな。」
「ほら、それが証拠に」
ボぅワぁ~!
「蒸気を焚き出した。」
「帆を張ればいいものを。意地っ張りな奴らだ。ハハッ!」
「そういえば、、ロドルフ。落ちた?」
「落ちた。」
「いないって事。」
「事。」
「そうか、指示をする者がおらんのか、、」
「皆、船室でどうしようか作戦練ってるって事だな?」
「事。」
「あれ?あいつ!まだ宙吊りのままじゃん!」
「あっ!カモメの群れに取り囲まれてわからんかったわ!!!」
「食べられちゃいますね。ハハッ!」
「皮と骨ばっかりだが、、、早く助けてやれ。」
「ほい!」