奴隷の行方 48~甲板の上の大合唱
ヤッサ売りのカロとダラを含む200余の奴隷は、尻を鞭で叩かれながら、羊飼いのそれの様にフランス・カザマンス部隊の蒸気船2艘に分かれて乗り込んだ。
それはバブエ達の蒸気船の数倍の大きさ。1艘には100のフランス部隊と、100の奴隷。もう1艘も同じ。向かうはバンジュールの港。
しかし、この船は奴隷運搬船ではない。フランス軍の軍事用の船だ。
奴隷達は甲板に放置され、少しの見張りの兵を残しフランス兵達は船室に入った。
「カロ。バブエを信じるかい?」
「言っただろ。信じようが信じまいが生きて種を撒くと。それが人としての一番の種の保存だ。」
「あの膝に落ちた涙は本物だったな。俺は信じようと思う。」
すると、カロとダラは甲板の上に立ち上がり滔々(とうとう)と歌い始めた。
「乾いた大地♪ 赤い土♪ 月の光はブビンガの芯をつらぬき根を張った♪
ここはセレール♪ 民の大地♪
パーニュ旗めくその風は万物全てを♪神にする♪」
すると、もう1艘の船からも。
「王の土壁♪ 崩れぬ城壁♪ 民が作りしその城は♪
神の如しのマンディンカ♪ おう!我らがカザマンス川よ♪ 悠久の時を刻みたまえ♪
流れは永遠に♪神の道へと続くのだ♪」
双方の船は奴隷達200の声で大合唱となった。それは波の音と共に、大きなうねりとなって空に渦潮を舞い上げた。
『うるさい!!黙れ!』
船室から銃を構え、出て来たのはロドルフであった。
『静かにしろ。皆殺しにするぞ。』
奴隷の間を潜って、ロドルフの前に出て来たのはカロとダラであった。
「撃てるもんなら撃ってみろ。皆殺しに出来るものなら。」
カロがそういうと、矢継ぎ早にダラが言った。
「少佐殿。ここで皆殺しにしちまったら、あなた様がジルベールとやらに殺されますよ。」
『ウグ、、』
「私達はね。自分達があんたらの奴隷となんて、これっぽっちも思ってやしません。足の鎖が一生外れまいが、鞭で叩かれ引きずられようが、脳天を銃でぶち抜かれようが、最後はあんたらも同じ。死んで土に還るだけ。人も木もライオンも最後は一緒に土に溶けるだけ。それをわかっているのは、、、どうやら我らアフリカの民だけらしいですな。」
『フン!』
「ロドルフ!この大地の人間を舐めるでないぞ! お前らフランスとはいくらでも闘ってやる!殺したければ殺すがいい!」
『うぐぐ。、、、フン!好きにしろ。どうせお前らはマンディンカに行けばただの虫けら。こき使ってやるわ。』
「虫けら上等!土から這い出て、お前らの足に食いついてやるわ!ハハハッ!」
「ほれ!皆!また歌おうぞ!」
カロとダラは甲板の舳先に立った。
乾いた大地♪~赤い土~♪
※作中のセレールの歌とマンディンカの歌は、、、私が勝手に詩を書いたのであしからず。




