奴隷の行方 46~蒸気船出航
蒸気船2艘に乗り込んだのは、セレール族100、フラニ族の100の奴隷狩り部隊だ。
色鮮やかな灯りを点灯し、甲板に響き渡る賑やかな声。主はフランス船とオランダ船。そここに浮いている筏。その間を2艘の蒸気船は右へ左へと潜り抜け外港に出た。
南米では植民地争いを始めたフランス、オランダ両国ではあったが、この地では未だ共存していた。
『良いか!今からゴレ島を右手にバンジュールに向かう! カザマンスの一番西。そこは以前イギリス奴隷貿易の拠点。しかし今はフランス領。どのくらいのフランス兵が占拠しているかわからない。もし万が一その浜に着ける事が出来ず、燃料を補充出来なければ、そのままカンビヤ川を西に進む。カンビヤの北に残りのセレールとフラニの部隊を向かわせている。フランスに見つからぬように山側を通過して行軍させている。彼らが石炭を調達してくる手はず。』
バブエがこれからの道程を皆に説明した。
「ん?なぜその南のカザマンス川を上らぬのですか?」
ブラルは聞いた。
『川の大きさが違い過ぎる。カンビヤ川の河口は川幅10キロにも及ぶ。大きければ大きいほど奴らフランスの目には触れにくい。しかも中流を過ぎるといくつもの三日月湖がくねり、なにかと都合良い。』
「ほ~う。しかしバブエ殿はなぜにそんな遠方の事までお詳しい?」
『植物学者だと言っておろうに!ハハッ!』
『それより先にあの3人の足に繋がれた鎖と鉄球を解いてやってくれ。あれでは身動きが取れん。これからも厄介になってしまう。』
「えっ、あの鎖、どのようにして?」
『槍だ。ブラル。お前の持っているその槍。その先を今燃やしている蒸気の燃料、真っ赤に燃えている石炭の中に。』
「なるほど。槍の先を赤くなるまで熱してそれを鎖に当てて溶かすと。」
『そういう事だ。足枷の輪っかまでは致し方ないが、鎖さえ解けばおのずと鉄球もだ。ずい分と楽になる。』
「わかりました。やってみます。」
蒸気船の西には、小高い要塞を包み込んだゴレ島が月夜に照らされ浮かんでいた。
海からの月明かりの反射はそれを殊更荘厳にしていた。
あるのは蒸気船のシュポという音。塒に帰りおくれたアホウドリのギャアという声だけであった。
先に塒に入ったのは、セレールとフラニの部隊であった。
疲れたのであろう。船の揺れは揺り篭のように彼らを夢の中へ引きずり込んだ。
バブエと操縦士の2人だけが、石炭をスコップで補充していた。
せっせ、せっせと。
※カンビヤ川
ここでのカンビヤ川はガンビア川の事であります。
マンディンカの言葉にはgの音素がなく、昔からこの地方ではカンビヤとよんでいたそうなので、こちらを採用致しました。




