奴隷の行方 43~「一つの国?」
「ファル様。お支度が整いました。ニジェ王のおられる村まで長い道中ゆえ重すぎる荷物は避け、お祝い返しのカジュの酒は2壺。それから、苗木を2本ドルンが背負って参ります。」
『おう。ハラ、ありがとう!では、マンサ、行って来る!』
「お持ちになられました?あれ。」
『持った。持った。ここに入っておる。』
ファルは腰蓑をポンと叩いた。
「失くさぬ様に。お気をつけあそばせ。」
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「ニジェ様~!ニジェ様~!ジョラの村からファル王様がお見えになりました! なにやら婚儀のお祝いのお返しをお持ちになられたとかで。」
「えっ、わざわざ? こんなに遠くまで、、すぐお連れして!」
ニジェは王であったが宮殿などは持っていない。民と同じ東屋風情だ。
木々が生い茂った密林において、この少人数ではそんな物が建てられるわけもなかったが、例え建てられようがニジェはそれを選択するような王では無かった。
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「お久しぶりでございます。ファル王様。その節は大変なご無礼を致しまして。我が身はまだ服役の身だと思おております。」
ニジェは、ささくれ立った床に頭を擦りつけお辞儀をした。
『ニジェ王様。頭をお上げになって下さい。その話はもうこれで無しという事に致しましょう。今日はこの間の祝宴のお返しに参ったのでありますから。ほれ、あの時、船で持ち返って頂いたカジュ酒、それとその苗木。ここで育ててみてはどうかと。』
「いや~これは有難き幸せ!民には皆もう一度この酒を呑みたいと、色々根掘り葉掘り聞かれましたゆえ。」
『それはそれは。お気に召された様で良かった。マンサもニジェ様に頂戴したムクロジを、毎日顔に塗りたくって洗っておりますわ!ハハッ!』
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「ところで、ファル様。この度はそれだけの御用事で?」
『ん?さすがニジェ様。オレの顔に出ていたかい?』
「なんとなく。」
『実はぁ、うちの檻に入っておるガーラ達囚人の事なのだが、そのぅ、オレとしてもマンディンカの犯罪人をいつまでもジョラの村に囲っておいては民に示しがつかんのだ。他の部族の悪い奴らをなぜジョラで面倒みなければならないのかと。』
「はい。申し訳ございません。重々わかっております。今、この裏手にガーラ達を引き戻すべく檻を作っておりまして、、、ただこの村の人数では人手が足りず、中々捗らぬ始末。」
『そうであろうな、、しかもここは人の住む様な場所ではない。これから子が出来、人が増えてゆけば尚更だ。』
「たしかに、、」
『そこでだ。物は相談なんだが。』
「相談?」
『ニジェ王様のフラミンガ。我がジョラ。小さくはあるが一緒の国にしてみてはいかがかと。』
「一緒の国?一つの国にという事でありますか?」
『そう。オレが勝手に言っとるのではないよ。すでに我がジョラの民には話をつけてある。』
ファルの横に座っていたハラとドルンが、すかさずウンウンと頷いた。
これは単なる政治的な部族の交渉ではなかった。
お互いに他部族の血を持ってその王の座についた者の意味深い合併交渉であった。