奴隷の行方 42~開けられた奴隷置き場
「見て来い。ジョセフ。」
「はい。」
ロドルフは指示した。
やはりであった。
奴隷仮置き場の中は、仰向けに横たわり息絶えて腐乱した者。すし詰め状態の中、立ったまま死に絶えた者。
飢えた者がその死体を食したかの様な大きく開いた腹の傷口。身動きできない状態の中で伝染していった気の狂い。
どこから侵入したのか、天井を埋め尽くした無数の蠅。
しかし奴隷達にはこれらを処理するすべが無い。腕一つ、指一本も動かす事が出来ない惨状だ。
鼻を引き裂く異臭とあちこちで叫び続ける獣の様な奇声が、空けた鉄の扉をも吹き飛ばしそうな様相であった。
カザマンス部隊を待った、、
日にちが経ち過ぎたのだ、、
ゴレ島にいた奴隷商人ジョセフでさえ、こんな惨劇は見た事がなかった。
それ以前にフランス人である彼は、ゴレ島にいても収容所に足を踏み入れた事さえなかったのだ。
ジョセフはすぐさま外に出ると、胃の中の物全てを吐瀉した。
「ゲボっ。良いから、一度外に出せ。鎖もしてある。体力もない。逃げられはしない。ゲホっ。」
出て来たのは500人のうち200足らずであった。
「なんだ!このざまはっ!そら見た事かっ!!これだけか!使える者はこの更に半分であろう!!」
ロドルフはジョセフの尻を蹴った。
「痛っ、いえ、私はここの管理は任されておりませんので、、痛ててて。私は引き渡しに立ち会っただけであります。」
「ジルベールになんと言えばいいのだっ!」
ロドルフはジョセフの首根っこを掴んだ。
「お前もマンディンカに来て井戸でも掘るか、、奴隷として。ハハッ!」
すると野飼いになった奴隷の一人がズルズルと足の鎖を引き擦りながら、ロドルフの前までやって来た。
ピシャ!!
その奴隷はロドルフの頬に思い切り張り手を食らわせた。
ハハハっ!ハハッハぁ!
「ううっ!なんだ!小奴は!?」
ロドルフが見たその男の目は遠く空の果てを見ていた。
(気がふれておる、、)
ボン!
ロドルフは持っていた銃剣の柄で男の腹を突いた。
バタン!
男はジョセフを下に敷き、その場に尻餅をついた。
「実弾が勿体ないわ。ジョセフ、小奴を海にでも放っておけ!」
一部始終を見ていた気のふれた幾人かの奴隷達は、奇声を上げながら手を叩いて大笑いした。
「黒が白を叩いたわい!!」
「ざまをみろ~!ハハハハハッ~!!」
彼らは本能のままを口にした。
しかしロドルフは彼ら部族の言葉を解する事が出来なかった。
通じてはいなかった。
※今回は、ストーリーの流れの中、少しではありますが当時の奴隷の現状について触れて置きました。




