奴隷の行方 41~サバとンバイとマリマ
「ほらっ!乗るんだっ!」
ゴレ島には古い小さな蒸気船が停泊していた。
ンバイとマリマは急き立てられ乗船した。そこは、甲板を掃除するデッキブラシが無造作に置かれた狭い道具入れの中であった。
「もっと奥に詰めろ!もう一人来る。」
(もう一人? 私達の他に?)
「ほら!お前も乗るんだ!その中だ!」
開いた道具入れの扉の向こうに、骨と皮ばかりの青年らしき男が見えた。
足に括り付けられた鎖の音。穴の空きそうな甲板の上を右へ左へとヨタヨタと歩いて来た。
ジャリん、ジャリん、ジャリん
朝の日に照らされた体は、深く刻まれてしまったその男の痩せた皺を浮き彫りにした。
「ほら!お前もここに入るんだ!ダカールまでの数十分の辛抱だ!」
その青年の尻を蹴り上げ、押し込んだのはジョセフであった。
よろめいた青年はンバイの胸に丸刈りの頭を突いた。
ゴン!
バタ!
道具入れの部屋は閉められた。荒い造りのその部屋には、東からの朝の日が漏れ出ていた。
『もし、大丈夫でありますか?』
ンバイは青年に声をかけた。
「ああ、なんとか、、」
『だいぶ、御痩せになっているではありませんか? このゴレにずっと?』
「そう。」
ンバイとマリマは男の痩せた顔を見た。
隙間だらけの板壁から漏れた日が、彼の顔を鮮明に映し出した。
『あれ?おや?もしや?あなた様は?』
ンバイが言うとマリマがすかさず言った。
「サバの王子!サバの王子ではありませんか!」
『マリマ、声が大きい。聞かれぬ方が良い。静かに。』
「ん?お前らは?、、」青年は2人の顔をシカと眺めた。
「?ンバイ!マリマ!」
『そうであります!サバ様!なぜここに?』
「なぜと言われても、、、俺は南米送りだと思っていたんだが、カジュを知っていると言ったらエストレーの2階の部屋に監禁されたのだ。お前らこそなぜ?」
『わたくし達も同じ。カジュの酒を造れると申したら、、フランスまで送られまして。』
「フランス?!よく戻ったな?」
『はい。彼の地は奴隷廃止とかで。』
「それは大変であったな、、どんな国であった?」
『それはもう別世界。港には大きな船。その周りは天に届く様な建物が軒を並べ、、奴隷という身でなければさぞかしと思う町でありました。』
「そうか、、」
3人はしばらく押し黙った。
サバがポツンと切り出した。
「そういえば、お前達がジョラに残して来た俺の弟はどうしているであろうな?」
『うっ!わっあ!』
マリマはサバの突然の言葉に崩れ落ちて泣き出した。
それは、この場に及んで我が子を心配してくれているサバ。
「俺の弟」と口にしたサバ。
そうであった。サバもファルも同じマンディンカの王、バルの息子だ。
すでに忘れようとしていた我が子の事が、一挙に2人の胸に去来した。
倒れかけたマリマの体を抱き上げたのは、やせ細ったサバの身体であった。




