奴隷の行方 40~来たのは片腕ロドルフ少佐(挿絵有り)
ダカールの露店街はいつもの朝より早かった。
早朝7時に仕込みを始める露店商は、この日は5時に動き出した。
「兄貴、なぜ今日はこんなに早く?」
「朝に到着するんだ。」
「誰がです?」
「カザマンスの連行部隊だ。ここのもの皆、奴隷商人のジョセフに頼まれてな。」
ジョセフとは、フランス軍に奴隷夫婦2人を託されゴレ島にいたあの男だ。
露店街の石畳に朝の黄色い日が差し込んだ。両脇に立ち並ぶ土壁の家が露店の屋根を陰にした。
建物の上でウトウト睡眠をとっていたカモメが、一斉に港に向け飛び上がった。
それは、いつもの事ではない。物音のざわつきに舞い上がったのだ。
「来た!カザマンス奴隷連行部隊!」
童晶・画
狭い路地の石畳を擦り減らんばかりに強く踏みしめ、先の角を朝日と共に曲がって来た。
総勢200。
先頭を切ってきた兵。グレーの軍服の左ポケットには、色とりどりの勲章がいくつも縫い付けられていた。
軍帽の左にも同じように数々の栄光のエンブレムが並んでいた。それは他の兵を圧倒する身成であった。
「なんか。凄いな。誰だ? 見た事ないな。」
「連行部隊のお方ではない?」
出迎えたのはそのフランス人奴隷商人のジョセフであった。
「これは、これは! ジルベール将軍様の片腕ロドルフ少佐殿! 自ら部隊をお引き連れで!」
『お前か?奴隷商人ジョセフというのは。」
「はい。わたくしめでございます。」
『とりあえずは朝飯だ。兵は皆、お腹を空かしておる。たんまりと飯を与えてやってくれ。』
「はっ!畏まりました!」
「皆!!焼け!煮だせ!炊け!」
狭小の露店街は、雑多な煙が充満し、この路地にだけに朝靄が舞い降りた様であった。
腹ペコのカザマンス兵達は一斉に散らばり、好き好きに朝飯を食らった。
「足りん!足りん!おかわりだ!早くせい!」
「まだか!まだか!こっちにはまだ出て来とらんぞ!」
露店商達は朝から大わらわの体であった。
『おい、ジョセフとやら。今奴隷はどれくらいおるのだ?』
ロドルフは匙をマフェのソースに差し込んだ。
「ざっと、500は。」
『500。連れて行くにも、働かせるにも丁度良い数。して、どこに?』
「借り置き場にパンパンに。」
『あそこに500? 入れるのか?入れたのか?』
「ぶち込んであります。」
『それはやり過ぎ!中の様子は?確認しておるのか?』
「あっ、いええ。それは、、あまりの悪臭に。踏み入れた事は、、ないです。」
『バカ!!そんなもん、半分は死んでおろうが!!500丸々生きておるはずがない!!』
「、、、」
『どうせ、飯もくれておらぬのであろう?! 奴隷の意味がないであろう!』
「しかしそうは言いましても他には、、」
『頭を使え!』
ロドルフは自分がジルベールに言われた言葉をそっくりジョセフに返した。
『そんな奴隷ではな!いくらにもならん!安く叩くぞ!いいな!二束三文だ!』
「えっ、、ロドルフ様、、そんなぁ、、」
『おい!マフェ!マフェのおかわりをくれ!』
ロドルフは空になった皿を露店商に放った。
煮込んだマフェの湯気が2人の間を遮断する様に通り抜けた。




