奴隷の行方 39~偽の焼刻印
奴隷船アデレイド号は急遽、南アメリカに向かった。
それは彼の地でオランダとの植民地争いによる戦争が始まろうとしていたからだ。
フランスからの武器や弾薬を積んだアデレイドは、好都合であった。
ゴレ島に一切の貨物を下ろすことを取りやめ、オランダとの闘いに備えそのまま南米へと舳先を向けた。
2人の奴隷夫婦はゴレ島のフランス商人に託された。
「この2人か、フランスから舞い戻って来た夫婦というのは? どこのどいつだ?小奴らをマルセイユに送ったのは?」
「たぶんサールではないかと。」
このフランス商人の下で働いていた通訳が言った。
「サール? 奴が? なぜ南米ではなくフランスに?」
「それは私もわかりません。しかし彼がフランス警察に撃たれた所をみると、、」
「何かあったな、、、しかしアデレイドは取って返しで既に出航した。」
「小奴らに刻印がありましょう?なにかわかるかも知れません。」
「おい!2人!尻を出せ!」
ペロ。
「ん~、、汚れてはおるが何もないぞ。刻印無しでフランス?」
「ちょっと待ってください。」
通訳は2人の尻の前で屈んだ。
通訳は尻の汚れを人差し指で拭い、その臭いを嗅いだ。
「これは、ブビンガのヤニ?」
「ブビンガ?」
褐色の尻にはうっすらと長方形の模りが見えた。
「疑似。これは塗られた物のようです。ブビンガのヤニは赤味を帯びています。焼きの刻印は、押すと最初は赤く爛れ膨れます。このヤニを厚く塗れば誠焼き印。それが、この座り放しのマルセイユの道中、消えていったものかと。」
「しかし、それが何の意味をなす?」
「そこまでは私もわかりません。」
「まあ良い。いずれにしろダカールに戻すだけだ。面倒な事を調べてもなっ。」
「私、サールの執務の部屋に行ってみましょうか?今は誰も管理しておる者はいないし。なにか手がかりがあるかもしれません。」
「お好きなように。奴隷もここにはしばらく来ない長期の休み。余計な事はしたくない。」
この通訳の男はナサル。
ナサルはエストレーの2階に上がるとサールが使っていた部屋に向かった。
扉は鍵も掛かっていなかった。
(すぐに戻るつもりでいたであろうからな。それが、、)
ガチャリッ
(うわー!汚ったない部屋。)
ナサルは辺りを見回した。
(んん?この部屋は?外鍵がしてある。誰かおるのか?)
ナサルは木鍵をクルと回しその扉を解錠した。
開いた隙間からは、鼻を突き抜け喉奥にまで滲み込む悪臭が漏れだした。
(うわぁ!臭ぁ~い!)
ゆっくりと開けると、中は暗闇であったが、開けた扉の日が奥の壁まで照らした。
人がいた。鎖に繋がれた褐色の男。やせ細ったその体は、一つだけあった椅子の下に潜る様に横たわっていた。
サールがいなくなってから、水さえも口にはしていない男。サバだった。




