奴隷の行方37~バブエとブラル・ランプの下の謀(はかりごと)
バブエが地図を広げた。
宙吊りの鯨油ランプがそれを照らした。
フランス人管理官達は既に業務を終え、そそくさと帰った後だ。
『この辺り一帯がカザマンスだ。して、ここがジルベール率いる部隊がいるマンディンカ。で、この東、険しい山を2つ越えた先。ここがジョラの部落。疫病で壊滅したと聞くが、まだ生きている者がいるかもしれない。これより先は伝説の民フラミンガがいるとされている密林の湿地。まっおらんが。』
「さすが、詳しいなバブエ。」
ブラルはコクリコクリと頷いた。
『なぜ、カザマンスの部隊が奴隷を引き戻すと言ったかというとだなあ。えっ~とお、ここだ! マンディンカの遥か北を流れているカザマンス川。フランス軍はここから飲み水を引こうとしている。奴隷を使った用水路としての工事は終わったのだが、まだ水路が狭く土砂が流れ込んで詰まってしまっておるらしい。わかったのは奴隷をダカールに運び終わった後だ。それで人手が足りない上、兵もことごとく殺られた。』
「殺ったのは俺達だがな!ハハッ!しかし、それがどうしたというのだ?」
『戻った奴隷がこの水路に集結する。』
「それはそうだ。穴を掘ったり、土手を固めたりな。」
『その水はどこに流れる?』
「ん?マンディンカの町だろ?」
『では、ここにアコカンテラを流したら?』
「うっ!」
「しかし、そんな事をしたら奴隷も皆死んでしまう。」
『奴隷はな。そんな綺麗な水は飲ませてもらえぬ。たまに降る雨。それを貯水したもの。それだけだ。』
「お前なぜそんなことまで知っている?川の修復だの、雨水だの?」
『俺はここにいつも居るのだよ。皆、ここのフランス人管理官達が葉巻を吹かしながら世間話の様に話しておるよ。盗み聞きするまでもなく、大声でしゃべっている。ハハッ!』
「ん~。だけどそれを誰がやる?マンディンカに入るだけでも手難しいというに。」
『おるじゃないか。仮置き場に。2人。』
「ん?誰?」
『ヤッサ売り。』
「おー!まだいたのか!」
『あの2人もマンディンカ行きが決定だ。』
「なるほどぅ!」
『しかしフランス奴隷連行部隊はルーガで壊滅した。今はマンディンカに引き戻す兵がいない。時期に新たな連行部隊がやって来る。それまであの2人は仮置き場の中にいる。』
「サール殿はそこまで謀ってヤッサ売りを奴隷に?まさか?」
『それは俺もわからん。あの2人「サールめ!謀りおったな!」と言ってたから、、たまたまであろう。まっ、サール殿の偶然の置き土産としよう。』
『そして、もう1人置き土産。』
「もう1人?」
『頭の良い青年らしい。』
「誰だ?どこの者だ?」
『今はゴレの2階に幽閉されている。彼もすぐにフランス帰りの奴隷夫婦と共にダカールに連れ戻されるであろう。』
「名は?」
『サバ。マンディンカ人だ。』




