奴隷の行方 36~番外『ルーガの青年とフランス陸軍大佐』(挿絵あり)
これより7年前の事である。
ルーガの町はこの日も粉塵という名の赤い土が舞っていた。
やって来たのは、後のカザマンス部隊300の兵だ。
『寸分の狂いもない一本道だな。』
「見事でありますな。」
『転がっておるのは日乾しの煉瓦。これも綺麗に模られている。』
「家々に使われているのでありましょうな。」
『雨が少ないのであろう。煉瓦は保湿が高い。優れた材料だ。』
ルーガの民はその土煉瓦の小窓から、フランス軍の隊列を覗き見ていた。
『この建築物。この道。造った者がこの町のどこかにいるのであろう。皆が皆出来るとは思えん。奴隷狩りの前に探し出せ!』
「面倒くさいではありませんか? とっとと捕まえちまいましょう。」
『まあ、良いではないか。その家の者に聞いてみろ。』
「おい!出て来い!出て来ぬと、撃つぞ!」
出て来たのは子連れの女だった。わなわなと震えていた。
「聞くがな!この建物。それからこの道!誰が造った!」
「若い男衆が皆で。」
「そこを聞いとるんじゃない!!そのぅ、、誰が考え誰が図面を引いとるか聞いとるんだ!ボケ!」
「あああ、こ、これはそのぅ、この裏にあります黄色く塗られた土壁の家の青年が。」
「一人で?」
「はい。この町は彼がいないと家々が出来ません。ずば抜けた頭の持ち主でありまして。」
「わかった。訪ねてみる。お主は後でひっ捕らえるから、逃げずに待っておれ。ハハッ!」
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「大佐殿。わかりました。丁度寸そこ。この裏手の若い男らしいです。」
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兵はいきなりその家の扉を開けた。
「おい!出て来い!若いの!」
その青年はフランス軍の侵攻にも気づかず、足元だけをパーニュの布で包み仰向けで寝ていた。
「起きろ!」
兵が銃を構えて怒鳴ると、青年は驚いて飛び起きた。
『待て。銃は下せ。』
大佐が切り出した。
『お前か?この町の設計をしておる者は?材料も?』
「は?はい。」
『数字に長けておるようだな? どこで学んだ?』
「い、いえ。自分でああだこうだと考えまして。」
『ほほう。頭が良いな。よしよし。何もせん。俺らについて来い。悪い様にはせん。』
『おい!こいつは奴隷から除外だ!手厚く連れて行け!わかったな!バスチア!』
「よろしいのですか。レノー殿。」
『よいよい。ダカールまで連行し、商人に仕立てあげる。食糧や武器の輸出入には、小奴は打ってつけかもしれん。きっと即座に計算できるぞ。この建物を見れば一目瞭然だ。』
かくして、この青年こそが、サールであった。
彼を見出したのは、その後バスチアとの立場が逆転し補給隊長に成り下がったレノーであった。
『奴隷商人だけにはなるでないぞ。悲しい思いをするだけだ。』
しかしその後、計算高いサールはレノーとの約束を反故し、稼ぎの多い奴隷商人へと変貌する。
レノーはといえばこの天才青年サールを見出した事により、カザマンス制圧の折、将軍ジルベールに「この地には素晴らしき民がいる」と取りやめる様に苦言を強き、将軍の怒りをかった。
これにより、ルーガに帯同したバスチアがフランス軍精鋭の長となり、レノーは補給隊に下野されたのであった。
※レノーとバスチアの関係はカザマンス・FIRST「火蓋の上下31~プラウマになったアクラとレノー」の本文中にも記してあります。
宜しかったら、是非読み返してご覧ください。
※番外の本文中の兵の会話は「」がバスチア『』がレノーでありました。
※レノー大佐とバスチア中尉、奴隷商人サール
のご冥福をお祈りしての番外編と致しました。
ありがとう!レノー!さらば!サール!永遠に!バスチア!




