静かなる内戦17~ムル
150の軍勢はカザマンス川の西側の浅瀬を足首まで浸かりながら行軍した。
雨はまだ止まず、水辺の大きく高いシダは上からも彼らを水攻めにした。
弓や槍は装備しているものの、軍勢とはいえない数だけの民の行列。
しかし水を蹴散らしながらの150は、傍目に見ても壮観であった。
その行列の真ん中を、カマラは若い青年達に守られながら歩いていた。
『ムル爺、大丈夫でありますか?』
『まだ大丈夫だが、カマラはお前に言っておったろう。年寄はほっておけと。』
『、、、、』
『して、お前はンバイとマリマの子。グリオの子じゃろう? わしは、よぅく知っておるよ。』
『爺は知っておられたんですか?』
『ンバイは勇敢で優しい男じゃった。マリマは歌が飛びきり上手い。ンバイにも、よう尽くしておった。それをディオマンシは、、』
『それを?』
『、、、まあよい』
ムルは部族統率のため、このカザマンス一帯を統一していたカサ王国から、三十年前に使者としてやってきた霊媒師だ。呪医でもあり雨乞い師、祈祷師、占い師でもあるのだ。しかし今や、ジョラの最長老の民と化してしまった。
『スカはな、わしを重宝してくれた。あっ、お前は知らぬか。スカはディオマンシの父親じゃ。つまり、前のジョラの王じゃ。』
『聞いたことはある。』
『ディオマンシは王になってから、すっかりわしの言う事を聞かんようになってしまった。すべて自分で決めおった。殺戮やら幽閉やら、暴力ばかり使いおって。』
ファルはじっと聞いていた。
『カザマンス一帯の部族はな、霊的な力を振るって国や村を統率してきたんじゃ。軍事力や暴力は必要とせん。霊的支配で人心を安定させ従わせて来たんじゃ。それをあのバカ息子が、、』
『ムル爺。これからこのジョラはどうなっていくのでありましょうか?』
『ひとつ占ってみようか。この雨では雨乞いをしても仕方ないからのぅ。』
『歩きながらですか?』
ファルがそう言うと、ムルはニコと笑った。




